クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
隼人さんがヒースロー空港に旅立った次の日の午前十一時、私はパリのシャルルドゴール空港へ向けて離陸した。
アラスカから北極圏、グリーンランドを経て、隼人さんがいるロンドン上空を通ってパリに向かう十五時間のロングフライトだ。
昨日、隼人さんも同じルートで飛んだと思うと、頬が緩む。
「南雲さん、何だか楽しそうだね」
離陸から六時間が経ち、高度3万8千フィートでアラスカ上空を飛んでいた。コックピット内は静かで窓の外を流れる風切り音が聞こえるだけだった。
交代要員の田中キャプテンは休憩中で、今は先月ロスで一緒だった佐藤キャプテンと二人きりだ。
「いえ、その、オーロラが見られるといいなと思いまして」
隼人さんのことを考えていたことを見透かされたようで、慌てて誤魔化した。
「この時期の北回りは、オーロラより太陽に追いかけられるよ」
佐藤キャプテンが指差す先は、夜のはずなのに、地平線が燃えるような淡いオレンジ色に染まっている。五月下旬の北極圏はすでに白夜の季節に入っていた。
「そうですね。沈まない太陽を見ていると、時間が止まっているような不思議な気分になります」
「その気持ちわかるよ。空を飛んでいると、不思議な現象や自然の美しさを目の当たりにすることが多いよね。僕はこの年になっても空を飛ぶ度に感動することがあるよ」
佐藤キャプテンの穏やかな言葉に深く頷いた。
「本当ですね。高月キャプテンもこの間、同じことを言ってました」
思わず名前を出してハッとした。
「そう言えば高月くん、昨日のロンドン便だったね。彼を追いかけるように同じコースを飛んでいるわけだ」
茶化すように佐藤キャプテンに言われて頬が熱くなってくる。
「もう、からかわないで下さいよ」
「ごめん、ごめん、昨日、今岡から南雲さんが高月くんを泣きながら探していたって聞いていたから」
恥ずかしくて顔が熱くなった。まさか昨日の出来事が佐藤キャプテンにまで共有されているとは。
「あれは違うんですよ。泣きながら探してませんから。今岡キャプテンが大げさなんです」
「そうだろうね。あいつの話はいつもオーバーだから」
楽しげな佐藤キャプテンの笑い声を聞きながら、照れくさくて計器に視線を落とした。
なんだか私が物凄く隼人さんを好きみたい。契約恋人としてはそう評価されてるのは正解だけど、複雑な気持ちだ。
「南雲さん、そろそろ交代の時間だ」
佐藤キャプテンがそう言ったタイミングで、休憩に入っていた田中キャプテンが戻ってくる。私は引継ぎをして、入れ替わりでクルーレストに向かった。狭いベッドにゴロリと横になり、スマホを取り出す。
画面に表示されているのは、隼人さんとのツーショット写真。周囲に疑われないように契約恋人になった日から待ち受け画面に設定している。
写真は隼人さんの部屋でソファに並んで座って撮ったものだった。あの日、隼人さんが作ってくれたパスタが美味しかったと思いながら、隼人さんに会いたくなる。はあっと短く息をつき、スマホを仕舞った。
「隼人さんに会いたいのは、父のことでお礼が言いたいから、それだけよ」
そう自分に言い訳をして、目を閉じた。
アラスカから北極圏、グリーンランドを経て、隼人さんがいるロンドン上空を通ってパリに向かう十五時間のロングフライトだ。
昨日、隼人さんも同じルートで飛んだと思うと、頬が緩む。
「南雲さん、何だか楽しそうだね」
離陸から六時間が経ち、高度3万8千フィートでアラスカ上空を飛んでいた。コックピット内は静かで窓の外を流れる風切り音が聞こえるだけだった。
交代要員の田中キャプテンは休憩中で、今は先月ロスで一緒だった佐藤キャプテンと二人きりだ。
「いえ、その、オーロラが見られるといいなと思いまして」
隼人さんのことを考えていたことを見透かされたようで、慌てて誤魔化した。
「この時期の北回りは、オーロラより太陽に追いかけられるよ」
佐藤キャプテンが指差す先は、夜のはずなのに、地平線が燃えるような淡いオレンジ色に染まっている。五月下旬の北極圏はすでに白夜の季節に入っていた。
「そうですね。沈まない太陽を見ていると、時間が止まっているような不思議な気分になります」
「その気持ちわかるよ。空を飛んでいると、不思議な現象や自然の美しさを目の当たりにすることが多いよね。僕はこの年になっても空を飛ぶ度に感動することがあるよ」
佐藤キャプテンの穏やかな言葉に深く頷いた。
「本当ですね。高月キャプテンもこの間、同じことを言ってました」
思わず名前を出してハッとした。
「そう言えば高月くん、昨日のロンドン便だったね。彼を追いかけるように同じコースを飛んでいるわけだ」
茶化すように佐藤キャプテンに言われて頬が熱くなってくる。
「もう、からかわないで下さいよ」
「ごめん、ごめん、昨日、今岡から南雲さんが高月くんを泣きながら探していたって聞いていたから」
恥ずかしくて顔が熱くなった。まさか昨日の出来事が佐藤キャプテンにまで共有されているとは。
「あれは違うんですよ。泣きながら探してませんから。今岡キャプテンが大げさなんです」
「そうだろうね。あいつの話はいつもオーバーだから」
楽しげな佐藤キャプテンの笑い声を聞きながら、照れくさくて計器に視線を落とした。
なんだか私が物凄く隼人さんを好きみたい。契約恋人としてはそう評価されてるのは正解だけど、複雑な気持ちだ。
「南雲さん、そろそろ交代の時間だ」
佐藤キャプテンがそう言ったタイミングで、休憩に入っていた田中キャプテンが戻ってくる。私は引継ぎをして、入れ替わりでクルーレストに向かった。狭いベッドにゴロリと横になり、スマホを取り出す。
画面に表示されているのは、隼人さんとのツーショット写真。周囲に疑われないように契約恋人になった日から待ち受け画面に設定している。
写真は隼人さんの部屋でソファに並んで座って撮ったものだった。あの日、隼人さんが作ってくれたパスタが美味しかったと思いながら、隼人さんに会いたくなる。はあっと短く息をつき、スマホを仕舞った。
「隼人さんに会いたいのは、父のことでお礼が言いたいから、それだけよ」
そう自分に言い訳をして、目を閉じた。