極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 羽衣子は背を向けたまま肩まで湯に浸かっていた。

 緊張してはいるものの温泉の心地よい温かさに少しずつ身体の力が抜けていたその時、扉の開く音がして反射的に顔を向けた羽衣子は思わず息を呑んだ。

「……っ」

 上半身には何も身につけておらず、腰には一枚のタオルだけを巻いている昴がゆっくりと歩いてくる。

 その姿をまともに見ていられなくなった羽衣子は慌てて顔を背けてしまう。

 そんな羽衣子をよそに、昴は無言のまま湯船の縁まで来るとタオルを外してそのまま静かに湯へ入った。

 湯が静かに揺れる音とともに昴が近づいてくる気配を感じて羽衣子の鼓動がドキドキと音を立てる。

「夜風に当たりながらの風呂は、気持ちがいいな」
「そ、そうですね……。すごく、気持ちがいいです」

 昴の言葉に平静を装って答えたもののその声はわずかに震えていて、そんな羽衣子を気遣いつつも昴は更に距離を縮めていくと、

「……っ!」

 後ろから腕を伸ばしていき、羽衣子の身体を抱きしめた。

 突然の行動に驚いた羽衣子だけど抵抗することも無く、そのまま昴の腕の中にすっぽりと収まった。

「……あ、あの……」
「何だ?」
「……い、いえ……、何でもない、です……」

 背中越しに伝わる体温に羽衣子の頬は赤く熱くなる。

 湯の中とはいえ、何も身につけていない状態でこうして密着しているこの状況下でどうしていいのか分からない羽衣子の頭の中は混乱していた。

「緊張してるか?」
「……しますよ。昴さんは……余裕そう、ですよね」
「そんなことねぇよ」
「え?」
「こんなこと、経験がないからな……」
「え?」
「正直どうすればいいのか分からねぇ。普段風呂なんて希海としか入らねぇんだから」
「……そう、ですよね……」

 その言葉に羽衣子の中にあった緊張は少しだけ解けた気がした。

 自分だけが緊張している訳じゃないんだと分かったからなのか、不思議と心が落ち着いていたのだ。

 再び沈黙が訪れ、夜風が二人の間を静かに通り抜けていく中、

「羽衣子」

 名前を呼ばれて振り返った羽衣子と昴の視線が重なり、恥ずかしさから再び視線を逸らそうとしていた羽衣子の頬に触れた昴はそのまま顎に手を添える。

「……昴、さん……?」

 軽く持ち上げられた羽衣子の顔が自然と上を向くと、答える代わりに昴はゆっくりと顔を近づけていき、

「……っ」

 二人の唇が静かに重なった。
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