極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 羽衣子は背を向けたまま肩まで湯に浸かっていた。

 緊張してはいるものの温泉の心地よい温かさに少しずつ身体の力が抜けていたその時、扉の開く音がして反射的に顔を向けた羽衣子は思わず息を呑んだ。

「……っ」

 上半身には何も身につけておらず、腰には一枚のタオルだけを巻いている昴がゆっくりと歩いてくる。

 その姿をまともに見ていられなくなった羽衣子は慌てて顔を背けてしまう。

 そんな羽衣子をよそに、昴は無言のまま湯船の縁まで来るとタオルを外してそのまま静かに湯へ入った。

 湯が静かに揺れる音とともに昴が近づいてくる気配を感じて羽衣子の鼓動がドキドキと音を立てる。

「夜風に当たりながらの風呂は、気持ちがいいな」
「そ、そうですね……。すごく、気持ちがいいです」

 昴の言葉に平静を装って答えたもののその声はわずかに震えていて、そんな羽衣子を気遣いつつも昴は更に距離を縮めていくと、

「……っ!」

 後ろから腕を伸ばしていき、羽衣子の身体を抱きしめた。

 突然の行動に驚いた羽衣子だけど抵抗することも無く、そのまま昴の腕の中にすっぽりと収まった。

「……あ、あの……」
「何だ?」
「……い、いえ……、何でもない、です……」

 背中越しに伝わる体温に羽衣子の頬は赤く熱くなる。

 湯の中とはいえ、何も身につけていない状態でこうして密着しているこの状況下でどうしていいのか分からない羽衣子の頭の中は混乱していた。

「緊張してるか?」
「……しますよ。昴さんは……余裕そう、ですよね」
「そんなことねぇよ」
「え?」
「こんなこと、経験がないからな……」
「え?」
「正直どうすればいいのか分からねぇ。普段風呂なんて希海としか入らねぇんだから」
「……そう、ですよね……」

 その言葉に羽衣子の中にあった緊張は少しだけ解けた気がした。

 自分だけが緊張している訳じゃないんだと分かったからなのか、不思議と心が落ち着いていたのだ。

 再び沈黙が訪れ、夜風が二人の間を静かに通り抜けていく中、

「羽衣子」

 名前を呼ばれて振り返った羽衣子と昴の視線が重なり、恥ずかしさから再び視線を逸らそうとしていた羽衣子の頬に触れた昴はそのまま顎に手を添える。

「……昴、さん……?」

 軽く持ち上げられた羽衣子の顔が自然と上を向くと、答える代わりに昴はゆっくりと顔を近づけていき、

「……っ」

 二人の唇が静かに重なった。
< 200 / 200 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:31

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
過去の恋愛が原因で、「女にだらしない男」を何よりも嫌う向坂 来海(29)。 一方、御曹司で誰にでも優しく、来る者拒まず──けれど、誰にも本気になったことのない羽柴 充輝(29)。 本来なら交わるはずのなかった二人は、ある出来事をきっかけに関わるようになる。 他の女性とは違い媚びることも期待することもない来海の態度に、充輝は次第に強く惹かれていく。 「誰にも本気にならない」はずだった彼の、一途すぎる想いに触れ、恋を信じることを避けてきた来海の心は少しずつ揺らぎ始めていき――。 不器用で焦れったくて、簡単には進まない二人の恋の行方は……。 他サイト様にも掲載中
恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
夏目萌/著

総文字数/107,920

恋愛(純愛)115ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ハイスペ狙いの私にとって、恋愛経験ゼロの年下くんは“対象外”だった。 あの日、間違えて電話をかけてしまうまでは。 不器用なくせに一途で、真っ直ぐで、時々ずるい。 そんな彼に翻弄されながら、私は少しずつ本気の恋を知り、彼の深い愛に落ちていく――。 藍島 朝陽 23歳 × 木葉 亜佑美 26歳 ※あくまでもフィクションです。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。 ※表紙画像はAIにて生成しました。
表紙を見る 表紙を閉じる
結婚を約束しながらも、ある事情によって引き裂かれてしまった二人。 それから四年後――シングルマザーとして幼い娘を育てる瀬戸 和葉の前に、かつて愛した鳴海 湊が現れる。 湊は一人で頑張る和葉を放っておけずに何かと手を差し伸べるようになり、もう二度と離したくない湊の一途な愛情に包まれながら和葉は止まっていた恋と向き合っていくも、彼女はある秘密を抱えていて……。 運命に引き裂かれた二人の甘く切ない再会ラブストーリー。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop