僕の秘密と、彼女の嘘

言いかけた言葉

「すごい……響の家、グランドピアノあるんだね」

玄関ホールの脇、防音室を覗き込んだ七瀬が、目を輝かせる。

「ああ、母親がピアノ講師でさ……」

「へー! ピアノの先生なんだ!」

「いや、ピアノ教室っていうより、大学の講師だけど……」

「じゃあ、響もピアノ弾けるの?」

「まあ……小さい頃から母親に習ってたから」

少し言い淀んで、正直に続ける。

「でもさ、自分の子どもだからって容赦なく厳しくて。最近は弾いてても、全然楽しくないんだ。楽しいのは……妹が歌うときくらいだよ。伴奏してるときだけは、まだ好きでいられる」

そう言った瞬間、玄関が開いた。

「ただいまー!」

たった今話題に出したばかりの妹――奏が、元気な声と一緒に帰ってきた。

「おかえり。今日は早かったね」

「うん! 一緒に遊んでた子が習い事行ったから、私も帰ってきたの」

そして、七瀬の姿を認めた途端、ぴたりと動きが止まる。

「えっと……おね……お兄ちゃんの、お友達?」

その言い方がおかしかったのか、七瀬が吹き出した。

「えっ、妹にも“お兄ちゃん”って呼ばせてるの? 徹底しすぎじゃない?」

「うるさい。どこで誰と繋がってるかわからないだろ。ご近所さんとか奏の友達にも、女だってバレないようにしてるんだよ」
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