暴れる恋情 ~萌ちゃんママは御曹司に激愛されまくりです~
藤堂さんの顔がぱあっと明るくなった。うう、美しい人のキラースマイル。もうこれだけで私は打ちのめされてしまう。まぶしいけど、こんな表情がまた見られるんなら、それは役得というものだろう。
藤堂さんは私を買いかぶっていると思うけど、また彼に会いたいという気持ちの方が大きい。
私は彼氏がいたことがないし、男友達もいないから.躊躇はもちろんある。びびりの私に、私の中の小さな自分がささやく。「こんな機会逃しちゃダメ。もうこんな人とは出会えないよ」
私は思い切り、自分の背中をどついた。
「また誘ってください。よろしくお願いします」
恥ずかしくて藤堂さんの顔は見れず、うつむいて小声でそう言った。
「そうか。じゃあ、早速、次に会う日を決めよう」
藤堂さんの声は弾んでいる。前回のカフェの時と同じように互いにスケジュール帳を突き合わせることになった。
そしてまたしても藤堂さんの予定はぎっしりだったが十日後の私の公休日に会えることになった。
「これでちゃんと会えるな。うれしいよ」
ストレートに言われて戸惑ってしまう。はい、となんとか相槌を打ち、今日すべきことを思い出す。
「これ、コーヒーで汚した文庫と同じものです。本当にすみませんでした」
バックの中から包装した文庫を取り出して藤堂さんに手渡す。
「ああ、ありがとう。うれしいよ。続きが読める」
「おもしろいので、藤堂さんの感想も聞きたいです」
「うん。本を読んだら君との本談義が待ってるわけだ。楽しみが増えたな」
そう言われると私もほっこりする。私が自信をもってやれるのは本の感想を言い合うことくらいだ。
その後、藤堂さんは私のアパートの近くまで送ってくれた。途中、コーヒーショップに寄って、藤堂さんが飲み物をテイクアウトし、別れ際に渡された。
「まだ寒いからね。ゆっくり飲むといい」
袋から香る匂いでココアだとわかった。
本を読むお供にココアを飲むことが多いと私が言ったのを覚えてくれていたらしい。
ココアの入った紙袋を抱えて藤堂さんの車が去っていくのを見送った。
部屋に入って、楽な恰好に着替えると、ココアを袋から出した。甘くて優しい香りがほんのりする。口をつけるとまだ温かい。
藤堂さんも綺麗なだけじゃなくて温かい人だったな、と改めて思った。
【 藤堂彰良side 】
「彰良様、お茶が入りました」
鈴音が俺の目の前に紅茶の入ったティーカップを置いた。俺としては本当はコーヒーが飲みたいのだが、の部屋に来ているので、鈴音のしたいようにさせている。
「ミルク、それともレモンを添えましょうか?」
「いや、このままでいい」
このやりとりも随分したものだけれど、鈴音は必ずきいてくる。鈴音は相手の俺がなにを好むかよりも、形を大事にするのだ。こういう形こそがもてなしですよ、と言わんばかりに。
何も入っていないストレートの紅茶を口にする。飲み終えたらいつものようにこの部屋を出よう。
会社に行けばたくさんの仕事が俺を待っている。
「お仕事、お忙しいですか」
この質問も、毎度のことだ。忙しいとわかっているのに鈴音はきいてくる。
「まあまあだな。君は?」
「私は...、そうね、夏用のサマーせーたを編んでるの。後はテーブルクロスに刺繍もしたわ。ちょっと凝りすぎてしまったけど。ナミには好評よ」
ナミというのは彼女についている召使だ。基本的に外との付き合いがない鈴音にはナミの存在が大きい。鈴音のワガママもきくが、常識的なことはほとんどナミから教わっている。召使というより家庭教師的な面もある。
昔に比べたら、随分と落ち着いてしゃべるようになった。
以前は黙り込んでいるかと思うと、突然マシンガンのようにしゃべりだしたりと感情の起伏が激しかった。
いつ頃からか鈴音は自分で「物静かな令嬢」というのを演じるようになっている。
紅茶を飲み干した。
「ごちそうさま。もう行くよ」
俺は椅子から立ち上がった。
「そうですか...またいらしてくださいね」
静かな瞳でそう言われた。
本当にそう思っているのか、以前は探ろうとしたものだけど、もう今となってはそんな気持ちも湧き上がらない。
俺はピンク色の壁紙に白いソファが置かれた部屋から出た。ドアの外にはナミが立っていて、俺に会釈する。
「お疲れさまでした」
「いや。君も。鈴音をよろしく」
俺はそう言ってまっすぐ貴島鈴音の家の玄関へ向かい、駐車してあった車に向かおうとしていた。脇に庭の広がる緩いスロープを降りていくとふと人の気配を感じた。
脚立を抱え腰の道具入れにハサミなどが入っている。庭師の息子の.....伊藤君、だったかな。たしか歳が鈴音と近かったはずだ。俺をじっと見つめている。
「お疲れ様。いいバラが咲きそうだな」
伊藤君は何か言いたげにしていて、ひと呼吸おいて、やっと口を開いた。
「鈴音お嬢さんと結婚するんっすか」
いきなり直球だな、と面食らったがそう思われても仕方ないのも承知の上だ。
「いや。俺にそのつもりはないよ」
伊藤君は俺の返事には何も言わず脚立を抱えて去って行った。
貴島家に来はじめてもうだいぶ経つが伊藤君と喋るのは初めてだったな。
貴島鈴音は俺の母の知り合いの娘だ。
鈴音には両親がいない。鈴音が幼い頃、交通事故で亡くなったのだ。
「鈴音ちゃん、寂しいから、彰良が一緒にいてあげてね」
中学生だった俺は小学六年生の鈴音に同情した。両親が突然いなくなるとはどういう気分なのだろう。子供心に、俺にできることがあるならしてやろう、と思ったのを覚えている。
両親の突然の死のせいで、鈴音は学校に行っていなかった。鈴音には話し相手が必要で、俺はそれに選ばれた。
以来、月に一度、鈴音の部屋に訪れてお茶を飲むのが俺の習慣となった。
社会人になったら来れなくなるかも、と思っていたが、母の立っての願いで、どうにか時間をやりくりして来るようにしている。
中学生の頃は、ちょっとしたナイト気分だった。ひとりぼっちになった鈴音を俺が守ってやらなくちゃ。そんなふうに強く思っていた。
鈴音の本当の顔を知るまでのことだったけれど。
会社に戻ると、社長室の手前で、藤堂清隆に会った。俺の従弟で副社長をやっている。
「お早い出勤ですね。彰良さん。例の企画、そろそろいいでしょう。返事、待ってますからね。それとも趣味の読書が忙しいですかね?」
にやっと笑いながらそんなことを言う。
鈴音の後に清隆に会うとは、今日はついていない。清隆は何かと俺に突っかかってくる。清隆は俺が座っている社長の椅子が欲しいのだ。
そのため、人気作のコラボやメディアミックス事業に執着している。当たるものをとことんしゃぶりつくそうとするのが清隆のスタイルだ。確かに会社の利益をあげるためにはわかりやすいやり方だ。でも清隆はその「当たっている」作品の良さやどうしてファンがついているか、などに全く興味がない。
売れる期間に売れるだけ祭りをぶち上げ、売れなくなったら即撤退。悪くないやり方だが、俺は好きではない。
俺は、もっと作品と向き合い、どう扱うかを丁寧に吟味したい。いい作品はできるだけ長くつきあいたいのだ。創業者の祖父がそうして、ロングベストセラーの絵本を売り続けているように。
俺のやり方は清隆に言わせると甘く、金にならないと言う。そうだろうか。清隆のやっているいっときの祭りの方がよほど経費がかかっているのだが。
清隆は派手な戦略が好みで、俺の企画は地味すぎるといつも反発する。反発ですめば可愛いものだが、意図的に俺の企画を邪魔してくるので厄介だ。いつぞやは俺の敬愛する絵本作家に、膨大な数のコラボを無理強いした。最終的にはその作家は身体を壊してしまい、今は絵本製作を休んでいる。清隆は後年まで残ったであろう作家の才能をつぶしてしまったのだ。
俺はその作家に定期的に手紙を送り続けているが、返事は来ない。
シリーズ半ばで止っている絵本は今でも緩やかだが売れ続けていて「新刊はまだですか」という読者の声も聞こえてくる。
こういった事がいくつもあるので、清隆と対立することになるのは自然な流れだった。
読者の声を大事にしないような奴に社長の椅子はやれない。
男には七人の敵がいるというが、清隆は明らかに敵の一人だった。身内で同じ姓を持つ間柄だというのに。
「今日は鈴音さんのところに行ったんでしょう。どうだった?」
会食と会食の間の隙間時間。実家に用事があって顔を出すと、母からそんなことを言われた。
「ああ。元気そうだったよ」
「そう?ならいいけど。彰良はいつになったら時間ができるの?いつまで経っても鈴音さんと一緒になれないじゃない」
ソファに座り、お茶を飲みながら母が言う。
また始まった。母は、俺と鈴音が結婚するのを望んでいる。鈴音は俺の母と仲がいい。親のいない鈴音に、他に頼れる大人がいないので、俺の母を慕うのは自然な流れだった。俺も鈴音と出会ったばかりの頃は、部屋にひとりきりでぽつんと座っている鈴音を幸せにしたい気持ちがこみあげたものだった。
だがそれはもう、過去のことだ。
母にそう言いたいのだが、俺は仕事が忙しく、なかなか言い出す機会がなかった。
「まだ結婚をする気にはなれないよ。鈴音だってひとりを楽しみたいかもしれないじゃないか」
「なに言ってるのよ。女の子は好きな人と一緒になるのが一番の幸福よ。相変わらず彰良は女心がわからないんだから。お父様だって待ってらっしゃるわよ」
藤堂さんは私を買いかぶっていると思うけど、また彼に会いたいという気持ちの方が大きい。
私は彼氏がいたことがないし、男友達もいないから.躊躇はもちろんある。びびりの私に、私の中の小さな自分がささやく。「こんな機会逃しちゃダメ。もうこんな人とは出会えないよ」
私は思い切り、自分の背中をどついた。
「また誘ってください。よろしくお願いします」
恥ずかしくて藤堂さんの顔は見れず、うつむいて小声でそう言った。
「そうか。じゃあ、早速、次に会う日を決めよう」
藤堂さんの声は弾んでいる。前回のカフェの時と同じように互いにスケジュール帳を突き合わせることになった。
そしてまたしても藤堂さんの予定はぎっしりだったが十日後の私の公休日に会えることになった。
「これでちゃんと会えるな。うれしいよ」
ストレートに言われて戸惑ってしまう。はい、となんとか相槌を打ち、今日すべきことを思い出す。
「これ、コーヒーで汚した文庫と同じものです。本当にすみませんでした」
バックの中から包装した文庫を取り出して藤堂さんに手渡す。
「ああ、ありがとう。うれしいよ。続きが読める」
「おもしろいので、藤堂さんの感想も聞きたいです」
「うん。本を読んだら君との本談義が待ってるわけだ。楽しみが増えたな」
そう言われると私もほっこりする。私が自信をもってやれるのは本の感想を言い合うことくらいだ。
その後、藤堂さんは私のアパートの近くまで送ってくれた。途中、コーヒーショップに寄って、藤堂さんが飲み物をテイクアウトし、別れ際に渡された。
「まだ寒いからね。ゆっくり飲むといい」
袋から香る匂いでココアだとわかった。
本を読むお供にココアを飲むことが多いと私が言ったのを覚えてくれていたらしい。
ココアの入った紙袋を抱えて藤堂さんの車が去っていくのを見送った。
部屋に入って、楽な恰好に着替えると、ココアを袋から出した。甘くて優しい香りがほんのりする。口をつけるとまだ温かい。
藤堂さんも綺麗なだけじゃなくて温かい人だったな、と改めて思った。
【 藤堂彰良side 】
「彰良様、お茶が入りました」
鈴音が俺の目の前に紅茶の入ったティーカップを置いた。俺としては本当はコーヒーが飲みたいのだが、の部屋に来ているので、鈴音のしたいようにさせている。
「ミルク、それともレモンを添えましょうか?」
「いや、このままでいい」
このやりとりも随分したものだけれど、鈴音は必ずきいてくる。鈴音は相手の俺がなにを好むかよりも、形を大事にするのだ。こういう形こそがもてなしですよ、と言わんばかりに。
何も入っていないストレートの紅茶を口にする。飲み終えたらいつものようにこの部屋を出よう。
会社に行けばたくさんの仕事が俺を待っている。
「お仕事、お忙しいですか」
この質問も、毎度のことだ。忙しいとわかっているのに鈴音はきいてくる。
「まあまあだな。君は?」
「私は...、そうね、夏用のサマーせーたを編んでるの。後はテーブルクロスに刺繍もしたわ。ちょっと凝りすぎてしまったけど。ナミには好評よ」
ナミというのは彼女についている召使だ。基本的に外との付き合いがない鈴音にはナミの存在が大きい。鈴音のワガママもきくが、常識的なことはほとんどナミから教わっている。召使というより家庭教師的な面もある。
昔に比べたら、随分と落ち着いてしゃべるようになった。
以前は黙り込んでいるかと思うと、突然マシンガンのようにしゃべりだしたりと感情の起伏が激しかった。
いつ頃からか鈴音は自分で「物静かな令嬢」というのを演じるようになっている。
紅茶を飲み干した。
「ごちそうさま。もう行くよ」
俺は椅子から立ち上がった。
「そうですか...またいらしてくださいね」
静かな瞳でそう言われた。
本当にそう思っているのか、以前は探ろうとしたものだけど、もう今となってはそんな気持ちも湧き上がらない。
俺はピンク色の壁紙に白いソファが置かれた部屋から出た。ドアの外にはナミが立っていて、俺に会釈する。
「お疲れさまでした」
「いや。君も。鈴音をよろしく」
俺はそう言ってまっすぐ貴島鈴音の家の玄関へ向かい、駐車してあった車に向かおうとしていた。脇に庭の広がる緩いスロープを降りていくとふと人の気配を感じた。
脚立を抱え腰の道具入れにハサミなどが入っている。庭師の息子の.....伊藤君、だったかな。たしか歳が鈴音と近かったはずだ。俺をじっと見つめている。
「お疲れ様。いいバラが咲きそうだな」
伊藤君は何か言いたげにしていて、ひと呼吸おいて、やっと口を開いた。
「鈴音お嬢さんと結婚するんっすか」
いきなり直球だな、と面食らったがそう思われても仕方ないのも承知の上だ。
「いや。俺にそのつもりはないよ」
伊藤君は俺の返事には何も言わず脚立を抱えて去って行った。
貴島家に来はじめてもうだいぶ経つが伊藤君と喋るのは初めてだったな。
貴島鈴音は俺の母の知り合いの娘だ。
鈴音には両親がいない。鈴音が幼い頃、交通事故で亡くなったのだ。
「鈴音ちゃん、寂しいから、彰良が一緒にいてあげてね」
中学生だった俺は小学六年生の鈴音に同情した。両親が突然いなくなるとはどういう気分なのだろう。子供心に、俺にできることがあるならしてやろう、と思ったのを覚えている。
両親の突然の死のせいで、鈴音は学校に行っていなかった。鈴音には話し相手が必要で、俺はそれに選ばれた。
以来、月に一度、鈴音の部屋に訪れてお茶を飲むのが俺の習慣となった。
社会人になったら来れなくなるかも、と思っていたが、母の立っての願いで、どうにか時間をやりくりして来るようにしている。
中学生の頃は、ちょっとしたナイト気分だった。ひとりぼっちになった鈴音を俺が守ってやらなくちゃ。そんなふうに強く思っていた。
鈴音の本当の顔を知るまでのことだったけれど。
会社に戻ると、社長室の手前で、藤堂清隆に会った。俺の従弟で副社長をやっている。
「お早い出勤ですね。彰良さん。例の企画、そろそろいいでしょう。返事、待ってますからね。それとも趣味の読書が忙しいですかね?」
にやっと笑いながらそんなことを言う。
鈴音の後に清隆に会うとは、今日はついていない。清隆は何かと俺に突っかかってくる。清隆は俺が座っている社長の椅子が欲しいのだ。
そのため、人気作のコラボやメディアミックス事業に執着している。当たるものをとことんしゃぶりつくそうとするのが清隆のスタイルだ。確かに会社の利益をあげるためにはわかりやすいやり方だ。でも清隆はその「当たっている」作品の良さやどうしてファンがついているか、などに全く興味がない。
売れる期間に売れるだけ祭りをぶち上げ、売れなくなったら即撤退。悪くないやり方だが、俺は好きではない。
俺は、もっと作品と向き合い、どう扱うかを丁寧に吟味したい。いい作品はできるだけ長くつきあいたいのだ。創業者の祖父がそうして、ロングベストセラーの絵本を売り続けているように。
俺のやり方は清隆に言わせると甘く、金にならないと言う。そうだろうか。清隆のやっているいっときの祭りの方がよほど経費がかかっているのだが。
清隆は派手な戦略が好みで、俺の企画は地味すぎるといつも反発する。反発ですめば可愛いものだが、意図的に俺の企画を邪魔してくるので厄介だ。いつぞやは俺の敬愛する絵本作家に、膨大な数のコラボを無理強いした。最終的にはその作家は身体を壊してしまい、今は絵本製作を休んでいる。清隆は後年まで残ったであろう作家の才能をつぶしてしまったのだ。
俺はその作家に定期的に手紙を送り続けているが、返事は来ない。
シリーズ半ばで止っている絵本は今でも緩やかだが売れ続けていて「新刊はまだですか」という読者の声も聞こえてくる。
こういった事がいくつもあるので、清隆と対立することになるのは自然な流れだった。
読者の声を大事にしないような奴に社長の椅子はやれない。
男には七人の敵がいるというが、清隆は明らかに敵の一人だった。身内で同じ姓を持つ間柄だというのに。
「今日は鈴音さんのところに行ったんでしょう。どうだった?」
会食と会食の間の隙間時間。実家に用事があって顔を出すと、母からそんなことを言われた。
「ああ。元気そうだったよ」
「そう?ならいいけど。彰良はいつになったら時間ができるの?いつまで経っても鈴音さんと一緒になれないじゃない」
ソファに座り、お茶を飲みながら母が言う。
また始まった。母は、俺と鈴音が結婚するのを望んでいる。鈴音は俺の母と仲がいい。親のいない鈴音に、他に頼れる大人がいないので、俺の母を慕うのは自然な流れだった。俺も鈴音と出会ったばかりの頃は、部屋にひとりきりでぽつんと座っている鈴音を幸せにしたい気持ちがこみあげたものだった。
だがそれはもう、過去のことだ。
母にそう言いたいのだが、俺は仕事が忙しく、なかなか言い出す機会がなかった。
「まだ結婚をする気にはなれないよ。鈴音だってひとりを楽しみたいかもしれないじゃないか」
「なに言ってるのよ。女の子は好きな人と一緒になるのが一番の幸福よ。相変わらず彰良は女心がわからないんだから。お父様だって待ってらっしゃるわよ」