妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 言葉に詰まっていると、ジェラールは肩を揺らした。

「でも、ここら辺が潮時なのかもしれない」

 ため息をつき、ソファに深くもたれかかるジェラールだが、ちょっと待って。そこまで聞かされた私、どうすればいいの? なにを望むの?

「とにかく――。エディアはああ見えて成人男性だ。そのことを忘れないで欲しい」

 ああ、だから同じ部屋で眠るのを断固として許さなかったのだろう。でも――。

「大丈夫です、ジェラール様。男女の好意というよりは、お友達が出来て嬉しい、といった感情だと思います」

 腕を組み、手を繋ぐ。そこに嫌らしい感情はなく、純粋に私を慕ってくれているように思えた。

「仮に男女の感情だったら――。大変なことになる」

 ジェラールは首を力なく横に振る。

「そしたら、絶対に逃げられない。エディアの執着は常軌を逸している」

 ――それは、私が誰よりもよく知っているわ。

 だが怖いので、そんなこと言わないで欲しい。シアナに向けられたあの感情、私に向けられたら終わるんですけど。

「だ、大丈夫ですわ、心配しすぎです!」

 わざと明るくふるまい、場を和ませようとすると、ジェラールも釣られて口の端が上がった。

「そんなリゼット嬢に、一つ提案があるのだが」

 少し空気が柔らかくなったと感じた時、ジェラールは咳払いした。

「なんでしょう?」

 首を傾げると同時に扉が開いた。

「リゼット」

 背後から名を呼ばれ、びくっとして振り返ると、そこにいたのはエディアルドだった。

「ずっと待ってたのに、なんでこんなところにいるの」

 ジェラールをにらみつけると、私の腕を引き、強引に立たせた。

「早く行こう。体が冷めちゃったから、紅茶を飲もう」

 そのまま私を引き連れて部屋から出て行こうとした。

「――待つんだ、エディア」

 声をかけたジェラールに、エディアルドはゆっくりと振り向く。

「そんなにリゼット嬢が気に入ったのなら、ずっと近くにいられる方法がある」

 いきなりそんな発言をしたジェラールに驚いて、顔が前に出た。

 エディアルトはしばし無言でジェラールの顔を見つめた。

「へえ、どんな?」

 鼻で笑うエディアルドにジェラールは背筋を伸ばす。

「俺がリゼット嬢と婚約することだ」
「なぜ」

 即座に反応したエディアルドの声は、今まで聞いたことがないぐらい、低い。

「ハモンド家の一員になれば、君もリゼット嬢と関われるだろう」

 ちょっと待って。当人抜きで話を進めないで!!

「――はぁ……」

 エディアルドは私の手をパッと離し、ハラハラして見守っている私と距離を取る。ジェラールの真正面に立ちはだかった。

「いい気になるなよ、ジェラール」

 怒気を含む声が周囲に響くと同時に、空気がドンと重くなる。エディアルドの周囲を黒い靄が包み始めた。

「なぜお前がリゼットと婚約するんだ。その発想自体がおかしいだろう。まさか、リゼットをずっとそんな目で見ていたとか、言わないよな?」

 外は晴れて太陽が出ているのに、この部屋だけ真っ暗の靄が包みこむ。これはピンチ、もしかして暴走まぎわ? ジェラールなんて、自分の発言が引き金となったくせに、言葉を無くしてたたずんでいるだけで、使えない。

 このままエディアルドが暴走したら――。見たくない、惨劇の場にいたくない。お願いだから、私のいない場所でやって! それか、私が帰ってからにしてちょうだい!!

 おどろおどろしい空気、このままじゃ、巻き込まれてしまう。エディアルドの気をそらさないとダメだ。いちかばちか、勇気を出してエディアルドに近づき、背後から腕を取る。

「お茶の時間よ、エディア」

 そのまま腕を絡ませ、顔をのぞき込んだ。

「早く行きましょう。冷めちゃうわ」

 無邪気にふるまう私をエディアルドは無表情で見つめる。

「…………いいよ。行こう」

 やがて表情を取り戻し、にっこりと微笑んだ。

 やった、エディアルドが放つ禍々しい空気が消え去った。エディアルドの気の変わらぬうちに、部屋から連れ出した。
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