妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「時折、自分が抑えられないんだ、俺」

 私に向かって俺という言葉を使ったので、驚いてフォークを落としそうになってしまった。

「俺の本当の名はエディアルド・カーライル。エディアは仮の名前だ」

 うっ……ついに本人の口から本名を聞いてしまった。これは物語とどう関係するのか、頭が真っ白になった。

「なんだよ、リゼットだって見ただろう? 俺の美しい裸体」

 エディアルドはケラケラと笑いだすが、裸体と聞き、顔が火照る。

「わ、わざとじゃないわ」

 真っ赤になった顔を見て、エディアルドがそっと指を伸ばす。

「本当に可愛いな、リゼットは」

 私へ向ける眼差しに愛情が含まれていると感じ取り、混乱する。

『エディアルドの執着は常軌を逸している』

 ジェラールの言葉がよみがえる。そんな、まさかだよね……。

「俺が初めて本名を自分から名乗った。その意味がわかる?」

 パチパチと目を瞬かせる私にエディアルドはクスリと笑う。

「名前で呼んで欲しい、ってこと」

 頬を染める彼は少し照れているみたいで、優しく微笑んだ。

「わ、わかったわ、エディアルド」

 望み通り名前を呼ぶと、大輪の花が開いたように顔がパッと輝く。
 彼は機嫌がいい。切り出すなら今だと判断した。

「ねえ、エディアルド。私、そろそろ、帰らないといけないわ」

 もう四日も過ごしたし、十分遊んだと思うの。これで物語からあっさり退場させられないぐらいには、仲良しになったんじゃないかしら。

 エディアルドはそれまで笑顔だったのが、急に真顔になった。

「まだ帰せない」
「前もそう言ったわよね? 私、家族が心配し始めると思うの」
「俺さ、思うんだよね」

 エディアルドは手にしたスプーンで紅茶をくるくるとかき回した。

「リゼットがいなくなったら、どう過ごせばいいだろう、って。むしろ今まではリゼットがいなくて、どうやって過ごしていたか思い出せないんだ」

 静かに紅茶のカップを見つめエディアルドは頬杖をつく。

「それなら帰さなければいいんじゃないかと思い始めた」
「そ、そんな」

 約束が違うじゃない。少し遊べば満足するはずと言ってたはずよ。エディアルドの心変わりに背筋がヒヤリとする。

「どうやったら帰らないでくれる?」
「それは……」
「足を折れば歩けないし、手が動かなきゃ、扉も開けれないから、逃げられないよね?」

 やめて――!! ヤンデレ発言に顔面蒼白になり、大きく首を横にふる。

「ふふっ、嘘。それじゃあ、リゼット痛いからかわいそうだもんね。ちょっと考えたけど」

 考えたんかい。

 やはりエディアルドはエディアルドのまま、狂気を身に潜めている。小説のようになるのは一日やそこらでなったものじゃない。長い時間で蓄積された結果だろう。出会ったのが今で、本当に良かった。

 もう少しあとだったら、どうなっていたか。それこそ、シアナだったら――。

 私は目をギュッと閉じると、テーブルの上でエディアルドの手を握る。

「そんなこと冗談でも言うのはやめて。怖いから」

 これで伝わるだろうか。一度ではわからずとも繰り返し伝えるしかないのではないか。

「恐怖で人を縛りつけようとするのは良くないわ」

 エディアルドは握られ手をゆっくりと見つめ、小さく微笑んだ。

「わかった」

 ひとまず聞こえた素直な返事に胸をなでおろした。

「でも、なんだか最近おかしいんだ。胸の奥がざわざわするんだ」

 エディアルドは片手で胸を抑えた。

「前はドレスを着るのが楽しくて、着替えるのも好きだったけど、最近はドレスを着てもこれじゃない、って思うんだ。なぜかは、わからないけれど」

 双子コーデだけはすごく楽しいけどね、とエディアルドは付け加えた。
 エディアルドは頬杖をつき、遠くを見つめた。

「リゼット、光の精霊の加護を持っているだろう?」
「ええ、そうね」
「街で男たちに絡まれた時、一生懸命、俺を助けようとする姿に感動したんだ。リゼットが、あまりにも本気で俺のことを心配するから驚いたんだ。それに、光の精霊の加護を初めて見た時、すごく懐かしい気がした。そして胸の奥がすごく温かくなって、そこからリゼットのことが気になって仕方がなかった。こんな気持ち、自分でも初めてだった」

 エディアルドは頬杖をつきながら、私を見つめた。

「リゼットは表情が豊かでよく笑って可愛いし、一緒にいると毎日が楽しい」
「あ、ありがとう」
「だからリゼットとずっと一緒にいたい。側にいて欲しい」

 頬を染めそうになる告白だが、勘違いしてはいけない。
 エディアルドはきっとさびしいのかもしれない。でもね、情にほだされてはいけないの。
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