妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「びっくりした……。まさかお姉さまが、第三王子様と知り合いだったなんて」

 馬車の中でシアナは頬を染めている。

「それに帰る時も、お姉さまのことを見つめていたわ。もっと話がしたかったんじゃないかしら」

 そんなことないとは思う。だが二年前は決して綺麗な別れ方とは言えなかった。だからこそ、普通に声をかけてきた彼に驚きさえした。

 前は年齢よりも幼く、少女の格好をしていたエディアルド。だが、今回はめっきり背も伸びて、どこから見ても男性だった。それも抜群に素敵に成長し、端正な顔立ちとルックスを携えていた。

 きっとこれから、彼は本来の男性としての道を歩んでくのだろう。
 シアナへ執着する道は断ち切ったように思えた。さっき二人は初対面だったが、お互い特別な感情を持ったようには見られなかったから。

「お姉さま、どうしたの……?」

 ボーッと考え事をしているとシアナから声をかけられ、ハッとした。

「なんでもないわ。少し疲れちゃったみたい」

 きっと私とエディアルドも別々の道を歩んでいくと思えた。

「これから、王宮は荒れそうな予感がするわね」

 頬杖をつき、窓の外を眺める。窓に映る私は険しい表情をしている。

「第一王子も第二王子もあまり評判が良くないところに、第三王子の出現。しかも五大属性の精霊の加護持ちだなんて……」

 今日の舞踏会でも見せたカリスマ性。嫌でも周囲の目を惹きつけていた。

「まあ、私たちには関係ないと思うけど……。シアナもあまり、関わらないようにして」
「私は少し挨拶しただけだし、関係ないから大丈夫よ。それよりもお姉さまのほうこそ、親しそうだったじゃない」

 シアナは肩を揺らして笑う、この笑顔を守りたい。
 そのためには平穏な毎日を過ごしたい。エディアルドとの関りが波乱を招くのなら、なるべく関わらないようにしなきゃ。

 大丈夫よね、きっと。
 この平和がずっと続くように祈りを込め、静かに瞼を閉じた。

 そして翌日、我が家を思わぬ人物が訪ねてきた。

「突然の訪問を失礼いたします、リゼット・グリフ嬢。私は魔法治療師として仕えている、マゴス・ティラーです。こちらは助手になります」

 魔法治療師と名乗った人物の背後に控えている女性には見覚えがあった。

「あなたは……」
「お久しぶりです。その後、調子はいかがですか?」

 私がエディアルドの暴走に巻き込まれ、ケガをした時に治療にあたってくれた助手だった。ということは、この魔法治療師の方が、私を治療してくれたのだろう。

 立ち話をしているわけにもいかず、客間に案内した。

「本日、エディアルド様からのご用命でうかがいました」

 マゴス様の発言に紅茶を噴き出しそうになった。エディアルドが、なぜ!?

「シアナ様は昔から体が弱いとのことで、原因解明と治療を申し付けられました。そしてリゼット様にも、古傷が残っていないかの確認です」

 私の傷跡はきれいさっぱり消えていた。

「私は大丈夫です。全然、あとにもなっておりません」

 ブラウスの袖をまくり、マゴス様の前に見せる。

「ふむ、傷跡は残っていませんね」
「マゴス様の治療のおかげです。遅ばせながら、あの時はありがとうございました」

 魔法治療師の助けがなければ、傷跡は残っただろうし、痛みで苦しんだはずだ。

「次にシアナ様を診察いたします」

 シアナは昔に比べたら、だいぶ発作が出なくなったのだが、たまに夜中に咳き込んでいることがあった。この咳が取れたらと、ずっと思っていた。

 魔法治療師に頼りたいと思ってはいたが、報酬も桁違いな上に、一般人が診てもらおうとするには申請が必要だった。王族や限られた人物だけが治療を受けられるのだから。

 私はゴクリと息を飲む。

「シアナを連れてまいります」

 もしかしたら、この機会に完治するかもしれない。

「では、楽にしてください」

 薄着になったシアナをベッドに寝かせると、マゴス様は全身に手をかざし始めた。手からはほのかな光が出ている。すごく集中しているのか、額は少し汗ばんでいる。助手は慣れた手つきで額の汗を拭いていた。

 やがてシアナの全身をチェックすると、マゴス様は息を深く吐き出した。

「心臓の血管が一部分だけ、細くなっているようですね。あとは気道が炎症を起こした跡がありますが、今は楽になったのではないでしょうか?」
「そうです。昔は月の半分はベッドで寝たきりでしたが、今ではだいぶ良くなったと思います」

 診断を聞いて、胸をなでおろす。念のため、毎日飲んでいる薬草をみてもらうことにした。
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