妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「これは加護の力を感じますね」

 さすがマゴス様は魔法治療師の名を持つだけあり、感じることができるらしい。

「この薬草を長い間飲み続けていたのからこそ、ここまで回復したのでしょう。この先も、薬草を取り続ければ、やがて完治するでしょう」

 マゴス様の診断を聞き、ホッとして胸をなでおろす。

「私の方での治療も始めましょう。精霊の加護を使って行いますが、薬草と同時に行えばやがて完治するはずです」
「ありがとうございます!」

 今よりもっと元気になって心配がなくなるなんて、まるで夢みたいだ。

「ありがとうございました。それで料金の件なのですが――」

 お高いだろうと覚悟はしている。だが、お金には代えられない。

「いりませんよ」

 マゴス様はきっぱりと断った。

「エディアルド様の指示でしたので、お代は必要ありません。お礼はエディアルド様に申し上げるとよろしいでしょう。では、私どもはこれで――」

 マゴス様は診察を終えると助手を引き連れ、颯爽と帰っていった。

「シアナ、良かったわ!」
「これで安心したな!」

 父と母もシアナを囲み、嬉しそうにはしゃいでいる。

「これもお姉さまが光の加護を使って、薬草を用意してくれたおかげだと思うの」

 シアナは笑顔で私を手招きした。

「だからお姉さま、ありがとう!」

 引き寄せた私をギュッと抱きしめる。

「そうだぞ、リゼット、よくやった。お前たち姉妹は私の自慢の娘だ」
「まあ、あなたったら」

 父もまた誇らしげに胸を張る。ああ、いいな、家族皆のこの笑顔を見守りたいな。

「ところでリゼット」

 父がゴホンと咳払いをし、私と向き合った。

「第三王子とどういった関係なんだ? 個人的に面識があるのか?」

 うっわ、きたよ、この質問。
 でも絶対聞かれると思っていたので、あらかじめ考えていたセリフを口にする。

「昔、別荘にいた時、顔見知りになりましたの。その時、妹の話をしたら、覚えていてくださったみたいですね。本当にありがたいですわ」

 にっこりと微笑む横でシアナが身を乗り出した。

「それがね、お姉さま、この前の舞踏会で第三王子のファーストダンスの相手だったのよ!」

 げえっ、シアナ、余計なことを言わないで!

「なに!? 本当か!?」

 父の目が輝きだし、前のめりになる。

「これはいい話が期待できそうなのか? どうなのか?」

 私の両肩をつかみ揺さぶる父に、顎がガクガクする。

「あなた、そんなに焦ってどうしますか。リゼットがびっくりするでしょう」

 それをそっとたしなめる母は父の手をつかんで止め、私に顔を向ける。

「――で、どうなのリゼット?」

 父も母も興味しんしんじゃないかぁ!!

 腰が引き気味になっていると、父は再度咳払いする。

「なに、シアナにばかり求婚の手紙が届くが、リゼットには一通も届いたことがないのだから、親として心配して当然だ。私の二人の娘はどちらも器量よしで性格も優しいのに、なぜこうもリゼットだけ、人気がないのだと!」
「そうよ、リゼットに全然話がこなさすぎて、お父さまと悩んでいたぐらいよ」

 まくしたてる父に母も便乗してくるが、そんな風に心配されていたなんて。もてなさすぎて辛い。

「待ってください、第三王子に限って、それはありませんわ。親切心から申し出てくださっただけですわ」

 もしくはあの日の罪悪感か――。

「まあ、第三王子の噂は耳に入っている。なんでも見目麗しく、端正な顔立ちで、五大属性の精霊の加護を持つ、前代未聞の逸材らしいな」
「そうですわ。そんなお方が私など、気に入ると思います?」
「それもそうだな」

 大笑いしてあっさりと認めた父だが、ちょっとは渋りなさいよね、と思う。
 その後、父に言われた通り、丁寧な言葉でお礼状を出した。
 
 それから三日後、父がすっ飛んできた。

「リ、リゼット! お前に封書がきたぞ! しかもお付きの人が直々に持ってきた!」
「え……」

 そう聞いて嫌な予感しかしないし、封書を受け取った瞬間、その予感は当たったと知る。
 蝋で固められた紋章が視界に入ったからだ。

「……」
「早く確認するんだ」

 封書を片手に固まる私を父が急かしてくる。ペーパーナイフで封を開け、中を確認する。

「なんと書かれているんだ?」

 手紙を読んでいる横で父はそわそわとして落ち着かない。

「……お茶会へのお誘いよ」

 やられたわ。
 お付きの人を待たせている、そしてお茶会へのお誘い。これは昔の再現かと思うほど。

 ここで私が断っても、また招待状が届くと思われた。

 そして断り続けると――。
 またあの時のように拉致されては、たまらない。

 ならば逃げるのはやめて、彼を直接訪ねよう。私を構う理由はなんですかと。
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