妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「はじめてお目にかかる。ずっと君にお会いしたかった」

 ドンと目の前のソファに腰かけ、両手を組んで私に向ける眼差しは鋭い。
 白髪の髪を後ろになでつけ、青い瞳を向ける初老の男性はカーライル公爵であり、エディアルドの祖父だ。

 王妃の件があって数日後、カーライル公爵から直々の招待状が送られてきた。
 あまりのタイミングの良さに、きっとすべてお見通しなのだと思った。

 きっと私にいろいろと言いたいことがあるのだろうな、そんな気がして身構えた。
 会うのは気乗りしなかったが、目上の方だ。そういうわけにもいくまい。それにあのエディアルドの祖父。私と会うと決めたら、どんな手を使ってでも実現しただろう。なんとなくだけど、そんな気がした。

「はじめまして、カーライル公爵様」

 名前を名乗り、深々と頭を下げた。カーライル公爵に勧められ、ソファに腰かける。

「――エディアルドが変わったのは、リゼット令嬢のためだったんだな」

 やがて、ぽつりとつぶやいた。傍観しているようだが、すべて調べはついている、とも。

 全身に緊張が走り、背筋を正す。

「わしは、娘のイザベラーナが国王と恋に落ちた時、別れさせようとした。カーライル公爵家の一人娘が、望めばもっと良縁にも恵まれるだろうに、十も年上の男の皇妃になるなどと反対したものだ」

 カーライル公爵は昔を思い出しているのだろう、視線は宙を見上げていた。

「案の定、嫉妬深い王妃がそれを許すはずがなかったがな……」

 カーライル公爵は手をジッと見つめた。娘を守れなかったことを悔やんでいる様子に胸が痛む。

「エディアルドだけは――我が孫、そしてイザベラーナの忘れ形見、何事にも害されることなく、ただ平穏な幸せを祈っていた。女児として育てたのも、そのためだ。どこかでイザベラーナの忘れ形見が生きていた、しかも男児だと知れば、王妃は必ず仕掛けてくるはずだと思って」

 カーライル公爵は今までの思いを淡々と口にする。私は静かに耳を傾けた。

「あの子が五大属性の精霊の加護を持つと聞き、なおさら必死に隠さねばならぬと思った。精霊の加護を持つと知られたら、嫌でも権力争いに巻き込まれる。それだけこの国では精霊の加護というものは、尊いものだと、認識されている」

 カーライル公爵は初対面の私に積年の想いをぶつける。

「私のもとで、ずっと平穏にすごしていくのだと、願ってやまなかった。ただエディアルドの幸せだけを願っていた」

 カーライル公爵は組んだ腕に顎を乗せ、じっと私を見つめる。

「だが、そう思っていたのも二年前まで。二年前のあの件から、あの子は変わってしまった」

 二年前とは、私がエディアルドに拉致されたことを言っているのだろう。
 口調は淡々としているが、責められているのだろうか。

「このまま隠れて一生を過ごすより、本来の姿で表に出たいと。そのためには力が欲しいと自ら、精霊の加護を使いこなすと宣言した。長い髪をばっさり切り、それまでの自分と決別した」

 エディアルドの決意は相当強かったのだろう。

「すべて、リゼット・グリフ、ただ一人の女性のために」

 深く息を吐き出すカーライル公爵は肩を揺らし、小さく笑った。

「あの子は一度決めたら、最後まで貫き通す。もとより、炎と闇の精霊の加護を持つ者は、執着が強くなる傾向だと言われているが、エディアルドはその二つを合わせもつ。それに元からの性格のせいもあるだろう、その想いの強さは狂執着にもなる」

 カーライル公爵は本当にエディアルドのことを良く分かっているのだな。

「――王妃をやり込めたそうだな」

 静かに息を吐き出すカーライル公爵から鬼気迫る勢いを感じ、喉の奥からヒッと声が出そうになる。

「あの女狐が黙ってエディアルドを迎えるわけがない。必ずエディアルドに仕掛けてくると踏んでいたが、王妃は相手を見誤ったな」

 カーライル公爵は力なく首を横に振った。

「リゼット令嬢に手を出した王妃を、返り討ちにしただろう?」
「はっ、はい……」
「それでも命を奪わなかっただけ、成長したものだ」

 カーライル公爵はあの場を見ていないから、そう言えるのだ。少しでも私がゴーサインを出していたら、確実にやっちゃっていたと思う。本当、王妃は私に感謝した方がいい。

「王妃は北西のケルベルン地方へ療養に向かったと聞く。表向きは、体調を崩したという理由だが、本当は違うのじゃろうな。エディアルドから身を守るためだろう」

 カーライル公爵はすべて、お見通しのようだ。

「――今日、ここへ呼んだのは、礼を言いたかったのだ。エディアルドを止めてくれたのだろう」

 止めたというより、エディアルドが察して止めてくれた、と言った方が正しいのかもしれない。
 私に嫌われることを、なによりも避けたいからだ。

「今のエディアルドの歯止め役になれるのは、リゼット令嬢だけだ。あの子をうまく操れるのは、後にも先にも世界で一人だけだ」

 そんな大役、荷が重すぎる。

「だからこそ、エディアルドの側にいて欲しいと願う。もうあの子は、私が守らねばならない子供ではない。自分で守るべき存在を見つけたようだ」

 カーライル公爵はスッと立ち上がり、窓辺に立った。
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