妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「――私ももう、肩の荷を下ろす時だ。早くに母を亡くしたエディアルドを不憫に思うあまり、過保護にしすぎていたと反省した二年間だった。エディアルドはもう、自分で道を決めて歩いていくだろう」

 外を眺めながら後ろで手を組む、カーライル公爵は独り言のようにつぶやいた。

「今後、あの子の周囲は騒がしくなるだろう。権力争いなども、勃発するかもしれん。だが、そんな時でも、側にいてやってくれるか?」

 カーライル公爵は背中を見せたまま、私に問う。私はスッと立ち上がると、窓辺に近づき、カーライル公爵の背中に話しかける。

「はい。私も今回のことで自覚しました。私もエディアルドの側にいたいです」

 この気持ちは本当だ。
 物語の悪役で遠ざけなければいけないと思っていたが、今では私の中でとても大きな存在になった。私に向ける一途な愛情に上手く応えたいと思う。

 カーライル公爵はゆっくりと振り返ると、柔らかな微笑みを見せる。

 ――エディアルドに似ている。

 血のつながりを感じてうなずいた。

「そうか。その返答を聞き、とても安心した。ありがとう」

 優しく愛情にあふれんばかりの笑顔に、私もつられて笑顔になる。

「じゃあ、結婚式はいつにするんだ」

 ん?? 

 笑顔が固まる私を前にして、カーライル公爵は顎に手を当てた。

「ああ、すまない。私としたことが、早とちりしてしまったな」

 まあ、可愛い孫のためだもの、そうなるのも無理はない。――が、

「婚約をする方が先だったな。婚約式を大体的に開催しようではないか」

 大きく両手を広げるカーライル公爵だが、いやいやいや、ちょっと待って。私はエディアルドに対する気持ちを自覚したばかり。まだ本人にも伝えていないっていうの!

「三日間、盛大に祝おう!」
「それはちょっと……」
「ふむ、短いか。では一週間ではどうだ」

 この話を聞いていない感じが、エディアルドとそっっっくりだわ。嫌でも血のつながりを感じる。

「あとはひ孫の顔を、わしが生きているうちに見せてくれたら、もう思い残すことはない」

 きっぱりと言い切るカーライル公爵だが、それはさすがに気が早い、早すぎる。

「そんなこと仰らないで、長生きしてください」

 あたふたとしていると背後からクスッと声が聞こえた。

 振り返ると扉の側に立っていたのはエディアルドだった。いつの間にいたのだろう、気づかなかった。

「ノックをしたけど返事がなかったから」

 名前を呼び、近づいてきて真正面に立つと、ギュッと私を抱きしめた。

「会いたかった」
「つい、昨日、会ったばかりでしょう」

 人前でなに引っ付いているんだと、肩を押すが、びくともしない。

「大丈夫か、おじい様に変なことされなかったか」

 私の顔をのぞき込み、様子を確認するエディアルド。

「お前は、わしが目に入っておらぬようだな」

 脇から低い声が聞こえたが、エディアルドはどこ吹く風だ。

「おじい様がリゼットを呼び出したと聞きましたが、どうしました?」

 目を細めるエディアルドは、真意を探っているようだ。

「そう警戒するな。我が孫が迷惑をかけている令嬢に、日頃の感謝を伝えただけだ」

 カーライル公爵はため息をつくと、ソファに腰かけた。

「そうですか、ではリゼットは連れて行きます」
「えっ、ちょっと」

 エディアルドは私の手をグッと握ると、そのまま部屋から連れ出した。

「ど、どこ行くの?」

 エディアルドは手を引っ張り、グイグイと足を進める。

「こっちは、リゼットに見せたことがなかったと思って」

 大人しくエディアルドについていくと、広い廊下を進んだ先の重厚な扉を開けた。

「ここは……?」
「ここが、この屋敷で一番立派な部屋だ」

 広い部屋には太陽の光が差し込み、照らしている。窓からは風が入り、心地よい。甘い香りが部屋中に漂うが、何の香りだろう。

「ここは生前、母が使っていた部屋だ」

 淡い色合いの壁や、豪華な調度品にはホコリの一つもついていない。主がいなくなっても、手入れの行き届いている様子を見ると、大事に扱われているのだと感じた。

 その時、壁一面に飾られていた肖像画を見て、息を飲んだ。

「この方は……」
「イザベラーナ・カーライル。俺の母親」

 信じられなかった。

 金の髪をなびかせ、輝きに満ちた青い瞳を輝かせて微笑んでいる女性は見覚えがあった。

 夢の中で私に光の精霊の加護を授けてくれた。拉致された私とエディアルドの勝負で、私に手を貸してくれた。

 そして王妃と対峙した時、守ってくれた――。
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