妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「リゼット、どうした」

 ハラハラと涙の止まらなくなった私を見て、エディアルドは焦りだした。

 そうか、エディアルドのお母さまだったんだ……。なぜ私に力を貸してくれるのかと、ずっと不思議に思っていた。けれど、私のためじゃなく、エディアルドのためだったんだ。

 エディアルドが殻を破り、自分の人生を歩むようになるための手段として、私が選ばれたんだ。

 そこに母親の愛を感じ、涙が止まらなくなった。

「エディアルド、あなたはお母さまにとても愛されていたわ」

 静かに告げるとエディアルドは特に追及してくることもなく、小さく、ああとだけ返答した。

「イザベラーナ様は光の精霊の加護を持っていたでしょう?」

 これまで聞いたことはなかったが、今確信を持てた。

「ああ、そうらしい」

 エディアルドは私の使う精霊の加護が、温かいと言った。それと、闇は光に焦がれるとも。エディアルドは光の精霊の加護から、無意識にイザベラーナ様を感じていたんじゃないかしら。

 イザベラーナ様からの愛情を受け取っていたのかもしれない。

 涙を流し続ける私の頬に、エディアルドはそっと指を滑らせた。くすぐったくて少しうつむくが、すぐに顔を上げた。

「エディアルド、あなたが好きよ」

 はっきりと口にするのは初めてだ。エディアルドは弾かれたように目を見開いた。
 涙をぽろぽろとこぼしながら、初めて素直になったけれど、これもそう悪くない。

 肖像画の中のイザベラーナ様が、優しく微笑んでくれているような気がした。

 両肩に手を置かれたと思ったら、端正な顔を斜めに傾け、近づいてくる。開きかけた唇はエディアルドによって塞がれた。

 いきなりだったので、驚いて胸を押した。

「ま、待って」
「嫌だ、待たない。待てないんだ」

 エディアルドは私の腰に腕を回し、体を引き寄せてくる。それはすごい力だ。
 逃げようとすると片手で顎をつかみ、上を向かせる。

「二年も離れていたんだ、誰が逃がすかよ」

 再び降りてきた唇に、情熱的に貪られた。エディアルドの全身が熱を帯びて、私にもうつったみたいだ。
 やがて静かに離れた唇は感慨深げに小さく息を吐き出した。

「もう離さない、リゼット」

 耳元でささやかれながらも、強く抱きしめられる。

 ああ……もう、仕方ないかな。

 狂執着を持つというエディアルドだもの。きっと私はもう、彼から一生離れられない。仮に私が逃げようとしたら、それこそヤンデレ監禁のメリーバットエンドが待っているんじゃない?

 エディアルドが悪役になり闇落ちするもしないも、私次第ということで――。

「いいよ。エディアルド、これからも一緒にいよう」

 私はもう覚悟を決めた。今世では一緒にいるわ。小説の中のエディアルドじゃないもの。まあ、その要素は多々あれど、すべて私次第に思えた。

 エディアルドは私の顔を見つめる。

「わかった。俺、頑張って王位をとるよ」
「ちょっ、待って! 今の会話の流れから、どうしてそうなる!?」

 いきなりぶっ飛んだ発言をするエディアルドに、夢心地だったが一瞬で覚醒した。

「俺が国王になれば、リゼットはこの国の女性の頂点に立つだろう。この国で一番の女性だと、皆に証明したいから」
「しなくていい!!」

 思考がぶっ飛んでいるけど、そんなときはこうやって止めるといい。――私の言うことは聞くはずだ。

「そうか。まあ、気が変わったら、いつでも言ってくれ」

 さらっと言うが気は変わらないよ。

「まあ、自然と担ぎあげられなくもないがな」

 エディアルドは意味深にフッと笑う。確かに王妃の勢力はもう無きに等しい。王妃のいなくなった今、他の王子たちは、どのぐらい後ろ盾を保持できるのか。それは誰にもわからない。

「リゼット、結婚がまだ早いというなら、婚約してくれ。リゼットを縛り付けおかないと不安なんだ」

 こうやって私の意志を聞いてくるだけ、まあ、成長したと思う。

「――いいよ」

 小さくうなずくとエディアルドは満面の笑みを見せる。

「リゼット、婚約式を開こう。たくさんの人達を呼んで、祝福してもらおう」

 エディアルドは私のわきの下に手を入れるとそのまま持ち上げ、グルグルと回した。
 ちょっと、よっぽど嬉しいのはわかるけれど、目が回るっていうの。

「婚約式は一週間でいいかな」
「長すぎるわ!」

 やはりカーライル公爵と血は争えないと、感じた瞬間だった。

 きっと肖像画の中のイザベラーナ様も苦笑しているはずよ。
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