チーターとガレット
もし彼の言うことが本当ならば、何をしたら後悔がないだろう。昔はいくつか夢があったが、そのどれもが今となっては実現不可能だ。学校の先生になりたいと思っていたが結局資格も取らなかったし、憧れの考古学者になるにも知識がない。
それなら旅行でもしようかと考えたが、どこへ行ったらいいのかも思いつかなかった。日頃から小さくても夢を持ち続けられる人ではなければ、機会が巡ってきたときに、何もできないものなのだと思わされる。
そういえば、サファリパークがそばにあるのに、一度も行ったことがない。最後だと言われても千枝が思い出すのはその程度のことで、死ぬまでに自分がやりたいことなのかといえば、そうではない。
「急に変な話をして、悩ませてしまってすみません」
キッチンから声が飛んできた。
「いえいえ、大丈夫です」
とりあえず、自分の生き方に問題がありそうなことはわかった。生きがいを感じられるものが、何もないのだ。強いて言えば、休みの日に美味しいものを食べるくらいで、それも先週の月曜日から始まったばかりの、新しい娯楽だ。こんなふうに流されながら、長い人生を過ごしているのは、自分だけかもしれない。
「すみません、お冷も出してなかったですね」
彼はサラダと一緒に、レモンの輪切りが入ったお冷のボトルとグラスを運んできた。
サラダは週ごとに変わるのかもしれない、ツナ入りのコールスローだった。器の端にはアミューズスプーンが添えられて、そちらにはオイル漬けのオリーブが入っている。
シンプルだが、これまで食べたことのない料理を見て、丁寧な暮らしという言葉が頭に思い浮かんだ。
これからは食事くらい後悔のないようにしておこう。そうすれば誇れるものが何もなくても、少しは満足できる人生になるはずだ。今はただ〈牛肉ときたあかりのタルト〉を楽しみに待つだけだ。


