隣の席の悪魔【旧版】
そのあと。

私はゲームセンターの前で、
急に立ち止まった。

「空くん見て!!」

「……なに」

私はケースの中を指差す。

腕時計。

白い文字盤。

細い黒ベルト。

シンプルで、
ちょっと大人っぽいデザイン。

「欲しい……」

「普通に買えよ」

「取る!!
高いもん!」

「無理だろ」

「やってみないと分かんないじゃん!」



数分後。

「なんでぇぇぇ!!」

私は台へ突っ伏した。

取れない。

全然動かない。

「だから無理って言った」

空くん、
後ろで呆れてる。

「もう一回!!」

「沼るぞ」

「うるさい!」

私は再び100円を入れる。

がこん。

動かない。

「っあーーー!!」

その瞬間。

後ろから、
小さくため息。

そして。

「貸せ」

え。

空くんが、
私の横へ立つ。

近い。

私は思わず黙る。

空くんは、
無表情のままレバーを動かす。

がこん。

……動いた!

でも。

落ちない。

空くんの動きが止まる。

数秒の沈黙。

そして。

「……ちっ」

え。

珍しく、
ちょっと悔しそう。

そのまま。

空くんが、
自分の財布から100円を取り出す。

「え、空くん?」

「黙ってろ」

がこん。

今度は、
少しだけ位置をずらす。

数秒。

ぽとっ。

「え!!!」

落ちた。

私は一気に顔を上げる。

「うそ!!」

空くんは、
普通の顔。

でも。

口元が、
ちょっとだけ得意そうだった。

私は思わず吹き出した。

「空くん、
めっちゃ本気じゃん!」

「うるさい」

空くんの耳がまた赤くて、
私はばれないように笑った。



ゲームセンターを出た後も、
私は腕時計の箱を抱えながら、
何回もにやけてしまう。

「やばい……
めっちゃ嬉しい」

「子どもか」

「だって空くんが取ったんだよ!?」

その瞬間。

空くんが、
少しだけ視線を逸らした。

私は腕時計の箱を見つめながら、
ぱっと笑う。

「大切にする!」

私はそのまま、
嬉しくて続ける。

「受験の時も使う!」

すると。

空くんが、
小さくため息をついた。

「……勝手にすれば」

「へへ」

私は笑いながら、
箱をぎゅっと抱きしめた。

その時。

空くんが、
少しだけ目を細める。

今日何度目かの、
やれやれって顔。

でも。

口元は、
いつもより緩んでいた。
< 103 / 150 >

この作品をシェア

pagetop