隣の席の悪魔【旧版】


新しい教室。

新しい席。

隣には、
空くん。

私は鞄を置きながら、
小さく笑った。

「なんか戻った感じするね」

空くんは、
机に頬杖をつく。

「……何が」

「入学の頃!」

すると。

空くんが、
少しだけこっちを見る。

そして。

「……またうるさくなる」

私は思わず笑った。

「空くん、
ちょっと嬉しそう!」

「気のせい」

私は前を見る。

窓から入る風に、
髪が揺れてくすぐったい。

その時。

空くんが、
ふとこっちを見た。

「……もうつけてる」

「え?」

私は瞬きをする。

空くんの視線。

カチューシャ。

あ。

私は思わず笑った。

「似合うでしょ」

空くんは、
少しだけ視線を逸らした。

そして。

「……まぁ」

数秒遅れて。

「……星野って感じ」

心臓が、
どくんと大きく跳ねる。

誤魔化すみたいに、
私は片手を挙げてみせた。

「これも!」

あの、
UFOキャッチャーで取ってくれた時計。

空くんは何も言わない。

でも。

耳だけ、
ちょっと赤い。

私はなんだか照れくさくなって、
慌てて前を向く。

窓から吹き込む春の風。

三年生。

最後の一年。

「……走るか」

空くんが言う。

私は思わず笑った。

「走る!」

春の光が、
新しい教室を静かに照らしていた。

また。

隣から、
一年が始まる。
< 106 / 150 >

この作品をシェア

pagetop