隣の席の悪魔【旧版】


放課後。

夕方。

オレンジ色の空。

私たちは、
いつもみたいに走っていた。

でも。

今日は。

会話が少ない。

風の音。

足音。

沈黙。

その全部が、
なんか苦しかった。

走り終わる。

息を整える。

私は空を見上げた。

夏の空。

綺麗。

その時。

空くんが、
ぽつり。

「……高校決まった」

え。

私はすぐに振り向く。

「ほんと!?
どこ!?」

空くんは少しだけ黙る。

そして。

視線を逸らしたまま言った。

「……県外」

一瞬。

意味が分からなかった。

「え?」

「寮あるとこ」

心臓。

どくん。

「……遠いの?」

自分でもびっくりするくらい、
小さい声。

空くんは少しだけ頷いた。

「まぁ」

風。

静か。

セミの声だけが遠い。

「そっか……」

私は笑おうとした。

「空くんっぽいね」

でも。

うまく笑えない。

声。

変じゃなかったかな。

分からない。

空くんは何も言わない。

ただ。

少しだけ。

苦しそうな顔してた。

その時。

やっと気づく。

――あ。

これ。

本当に離れるんだ。

高校。

県外。

寮。

放課後。

ランニング。

帰り道。

来年の春。

ここに、空くんはいない。

「……星野」

低い声。

振り向く。

空くんは、
少しだけ困った顔。

でも。

私はそれ以上見れなかった。

目の前が滲み始めたことに
気づいたから。

私は慌てて前を見る。

「そっか!
すごいじゃん、空くん」

声。

少し震えた。

その時。

空くんが、
少しだけ目を伏せる。

そのあと。

「……お前、
分かりやすすぎ」

……笑われたのかと思った。

でも。

違った。

空くんの声は、

いつもより少し、
掠れていた。
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