隣の席の悪魔【旧版】

声

一人暮らしのアパート。

私はベッドの上で、
携帯を握りしめる。

画面。

『朝比奈 空』

その名前を見るだけで、
心臓がうるさい。

……ほんとに、
繋がってる。

もう。

会えないと思ってた。

考えるのは、
終わりにしようと思ってた。

なのに今は。

電話だってできる。

嬉しいのに。

少しだけ、怖かった。

胸の奥で、
落ち着かないままだったから。

◇

一体何分、
こうしていたか分からない。

私はベッドの上で正座したまま、
相変わらず携帯の画面を見つめていた。

深呼吸。

震える指で、
発信ボタンを押す。

「っ……!」

呼び出し音。

どうしよう。

切りたい。

でも。

『……もしもし』

低い声。

一気に胸が熱くなる。

「っ、……あ」

声が出ない。

『星野?』

「……空くん」

電話の向こうで、
少し笑う気配。

『……早』

え。

私は一気に顔が熱くなる。

「だ、だって!!」

『帰って数時間』

「うるさい!!」

ふっ。

小さく笑う声。

耳元で聞こえる声が、
なんだかくすぐったくて。

私はぎゅっと枕を握った。

◇

『ちゃんとかけてきた』

空くんが言う。

私はベッドへ顔を埋めた。

「だって……
かけてもいいって言った……」

『言った』

低い声。

でも。

なんか。

絶対楽しんでる。

『……星野』

「ん?」

『緊張しすぎ』

「してないし!」

『してる』

「してない!!」

ふっ。

また、
小さく笑う声。

「空くん絶対笑ってる!!」

『まぁ』

「っ、もう!!」

私は枕を抱きしめながら、
むっと頬を膨らませる。

少しだけ、
電話の向こうが静かになる。

そのあと。

空くんが、
ぽつり。

『……図書館行って、
よかった』

え。

心臓。

どくん。

私は一瞬、
言葉を失う。

その声が。

思ったより、
ずっと優しくて。

私はぎゅっと、
携帯を握りしめる。

「……空くん、
電話だと変」

『失礼』

「へへ」

私はつい、
笑ってしまう。

『でも……まぁ、
顔見えてたら、
多分言ってない』

私は思わず、
枕へ顔を埋めた。

心臓が、
うるさい。

◇

通話が終わったあとも。

私はしばらく、
携帯を胸に抱えたまま動けなかった。

静かな部屋。

窓の外。

夏の夜。

でも。

胸の奥だけ、
全然静かじゃない。

「……だめ」

小さく呟いて、
ごろんと寝返りを打った。

なのに。

低い声。

小さな笑い声。

“図書館行って、よかった”

何回も。

頭の中で、
繰り返される。

結局その夜。

私は久しぶりに、
なかなか眠れなかった。
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