隣の席の悪魔【旧版】


帰り道。

風が強い。

「っ……」

私は思わず立ち止まった。

気づいた空くんも、
足を止める。

「星野」

「ん?」

「……こっち歩けば」

「え?」

空くんが、
道路側へ出る。

そして。

私を、
内側へ。

「風強いから」

え。

なにそれ。

なんなの。

優しい。

……ずるい。

白い息が、
歩くたび夜に溶ける。

静かな帰り道。

聞こえるのは。

風の音と。

私たちの靴の音だけ。

その時。

空くんが、
ぽつりと口を開いた。

「……風邪引いて休むなよ」

え。

私は、
隣を見る。

「隣の席。
……いないと、静かだから」

空くんは、
前を向いたまま。

……静かなの、
好きなくせに。

私は、
うまく返事ができなかった。

空くんの耳が、
少しだけ赤かったから。

私の心臓の音が、
うるさかったから。

ただ。

いつもより距離の近い、
隣の悪魔と。

並んで歩くだけで、
いっぱいいっぱいだった。
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