隣の席の悪魔【旧版】
試合終了と同時に。

私は床へ座り込んだ。

擦りむいた膝を撫でながら、
額の汗を拭う。

「つかれたぁ……」

その時。

ぶるっ。

肩が震えた。

……さむ。

そこで初めて思い出す。

ジャージ、
忘れてたんだった。

試合には負けるし。

空くんはむかつくし。

寒いし。

ついてない。

私が項垂れた、
その瞬間。

「落ち込み過ぎ」

顔を上げる。

涼しい顔の、
空くん。

「着れば」

自分のジャージを差し出しながら、
空くんが言った。

「え、
空くんは?」

「別に平気」

「勝者の余裕?」

「なんだそれ」

「……ありがと」

私はジャージを受け取って、
頭からスポンとかぶった。

ほんの少しだけ大きい。

でも。

思ったほど、
ぶかぶかじゃない。

袖が、
ちょっと長いくらい。

空くんが、
小さくて助かった。

『低身長同盟』

さっきの葛西くんの言葉を思い出して、
私はクスッと笑う。

……あったかい。

私は無意識に、
ジャージの襟元へ顔を埋めた。

そして。

ぽつり。

「……空くんのジャージ、
あったかいよ」

その瞬間。

隣で、
空くんがぴたりと止まる。

「……別に、
誰のも一緒だろ」

その時。

「うわ」

後ろから、
葛西くんの声。

私と空くんは、
同時に振り向く。

葛西くん、
めちゃくちゃ笑ってる。

「なに」

葛西くんが、
私の胸元を指差した。

そこには。

白い刺繍文字。

『朝比奈』

「“彼ジャージ”の割に、
めっちゃぴったり」

すると。

隣で空くんが、
小さく眉を寄せた。

「……どういう意味だよ」

「別にー?」

葛西くん、
肩震わせながら笑ってる。

ノッポの言うことは、
ちょっとよく分からない。

同盟組んでないから。

その時。

先生の笛。

「おーい!
片付けろー!」

「あ、やば!」

私は慌てて立ち上がる。

その瞬間。

空くんが、
こっちを見て。

少しだけ、
いたずらっぽく笑った。

「……似合ってない」

「えぇー?」

私は思わず袖を掴む。

「似合ってるもん!!」

すると。

空くんが、
小さく吹き出した。

「自分で言うな」

「事実でしょ!」

体育館に、
また葛西くんの笑い声が響く。

隣で。

空くんが、
また少し笑った。
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