隣の席の悪魔【旧版】


「星野」

低い声。

びくっと肩が跳ねる。

顔を上げる。

空くん。

いつの間にか、
目の前にいた。

「……何してんの」

「え?」

「ぼーっとしてた」

……見られてた。

「……別に」

私は思わず視線を逸らす。

すると。

空くんが、
少しだけ眉を寄せた。

「……なんか変」

その言い方が。

いつもより少し、
ぶっきらぼうで。

私は小さく唇を噛んだ。



放課後。

結局。

一日中渡せなかった。

チョコは、
まだ鞄の中。

今日も走る約束。

なのに。

なんか。

顔が見れない。

「星野」

「……ん?」

「静か」

空くんが、
走りながらこっちを見る。

「なんかあった?」

「別に」

「嘘つけ」

見透かされる。

私は小さく息を吐いた。

「……空くんって、
チョコいっぱいもらった?」

空くんは、
少し黙る。

「まぁ」

……そっか。

人気だもん。

私も、
その中のひとりなんだ。

その時。

ぽつり。

「……でも」

「え?」

空くんが、
前を見たまま言う。

「待ってるの、
まだあるから」

心臓が、
一度だけ大きく跳ねる。

え。

誰。

好きな人?

私はそのまま、
言葉が出なかった。



帰り道。

いつもの別れ道。

「じゃ」

空くんが言う。

空くんの背中が、
もう帰るって言ってる。

……今しかない。

でも。

私は、
ぎゅっと鞄を握る。

言え。

言え。

言わないと。

……でも。

「……また明日」

結局。

言えなかった。

空くんが、
少しだけ立ち止まる。

振り返る。

数秒。

そして。

「……またな」

空くんは、
少しだけ視線を落とした。

鞄の中の小さなチョコが、
やけに重く感じた。
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