敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~
花梨ははっきりと聞こえた声の方へ視線を向ける。 すると須天の隣にいた女性が、一歩彼女へと近づいた。
こちらを見つめる敵意に満ちた瞳は、鬼気迫るものがある。
人形のような可愛らしい顔立ちだからか、余計にだ。
『私と久登さんは婚約しているの。もしあなたが私たちの関係を知っていて不貞行為を行ったとなれば、慰謝料の対象者になるんですよ』
『え? 婚約者って……? 誰と、誰が……』
『だから言っているでしょう。私と、久登さんがよ!』
女性の言葉に、花梨の頭が真白になる。
一晩中、自分へ愛を伝え続けてくれた彼に、婚約者がいたとは寝耳に水だった。考えも付かなかった。
言葉を失いその場に固まる花梨に、須天は優しく微笑みかける。
『なるほど……その様子を見る限り、君は本当に、乃愛と久登の関係を知らなかったようだね』
『……はい』
短く答える花梨の声は、震えていた。
『婚約者がいらっしゃるということも……今、初めて知りました』
『この、うそつき……! 知らないふりをして、人の婚約者に手を出したくせに!』
感情を抑える気配もないまま、彼女は一歩、花梨のほうへ踏み出しかけた。
するとすかさず、須天が怒りに震える彼女の肩に手を置いて制止した。
『久登は近々、須天ホールディングスの副社長に就任する予定だ。それに合わせて、彼女との婚約も正式に進める話になっている』
須天はやけに優しく、花梨に告げる。
『久登が君に何を言ったのかは知らないが……一時の気の迷い、あるいは遊びだと思ってくれ。今後、ふたりの邪魔をしないように……君の出る幕は、初めからないのだから』
須天の言葉が、花梨の心に重くのしかかった。
先ほどまで残っていた久登の温度が、もう何も感じられない。
(久登さんにとって、私は初めから遊びだったの……?)
すると須天は、乃愛のほうへ視線を移し、腰に手を添えるようにしてやや引き寄せた。
『乃愛。今回は……結婚前の、ほんの一瞬の火遊びだ。この件は、目をつぶってくれないか』
『正隆さん……私、悔しいです。こんな女に……っ』