敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~

制服に着替え、衛生チェックを済ませた花梨は、チェック表を手にディスパッチエリア――機内食や備品を機体へ搬入する直前の、最終拠点へ向かった。
出庫待ちのケータリングカートが、便名札を下げたまま整然と並んでいる。
カートの中には、便名ごとに仕切られたトレイが何段にも積まれている。花梨はしゃがみ込み、下段から順にトレイを引き出しては、便名タグと数量を一つずつ指差し確認していく。

(B五六七……メイン、前菜、デザート……)

ラップがきちんと密着しているか、容器の角が浮いていないか、カトラリーがずれていないか。
機内で蓋が開くことがないよう、トレイを戻すたびに固定バーをしっかりと掛け直す。
西本が反対側からカートを支えながら、無言で頷いた。
最後に特別食用の赤いタグが付いたトレイをもう一度だけ確認する。すべてが合っているか確認し、ようやくほっと肩の力を抜いた。

(よし、大丈夫。ちょっとだけ慣れたかも)

花梨と西本は機内食の最終チェックをすべて終えると、ケータリングカートをトラックへ積み込み、機体へ向かう準備に入った。
大型車両の運転資格を持つ西本がハンドルを握り、花梨は助手席に乗り込む。

(……りゅうみたい)

大きな窓ガラスの向こうに、スターロードの機体が白い靄の中に消えていくのが見える。
それはまるで、雲の中へと身を隠していく龍のよう思わず目を見張った。
花梨はふと、自分自身を俯瞰して、とても不思議な心地になった。
料理人になることばかり考え、飛行機や旅行などといったものに、一切の関心がなかった自分が、こうして空の業界の最前線で働いているのだ。昔の自分をよく知り、空が好きだった彼が知ったら、どう思うのだろう。
ドラゴンのエルマーの近くにいけて嬉しい、などと言うのだろうか。
「木梨さん、ゆっくりでいいから。落ち着いてやってね」
「西本さん、承知しました!」
扉を開け、助手席から降りた花梨は、首に下げていた笛を口に咥え、大きく手を挙げた。
機内食を積んだ昇降式の専用トラック――フードローダーを、機体の搭載口まで正確に誘導する。
運転席からは機体周辺が死角になるため、地上に立つ助手が、手信号で指示を出すのが決まりだ。
花梨は一歩ずつ後退しながら、両手で角度を示す。

「……そのまま。少し、左へ」
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