敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~
低く一定のエンジン音が辺り一帯に響き渡る。フードローダーが、花梨の合図に合わせてゆっくりと距離を詰め始めた。
――そのときだった。
背後から、別の音が重なる。地面を這うような、鈍く低いエンジン音に、花梨は反射的にそちらを向いた。
気づいた瞬間にはもう遅く、フードローダーの死角から荷物カートを何台も連ねた牽引車が迫っていた。

「危ない!」

鋭い声と同時に、花梨の身体が強く引き寄せられる。
背中に回された腕に抱き込まれ、彼女は勢いよく硬い胸元に顔を埋めた。
視界の端に映った足元を、牽引車がすれすれで通り過ぎていく。
風圧が制服の裾を揺らし、エンジン音があっという間に遠ざかっていった。

(あ、危なかった。轢かれるところだった)

「すみません、つい。大丈夫でしたか」

低く落ち着いた男性の声が耳元で響き、花梨の鼓動は跳ね上がる。
体を包む腕の力強さに、彼が体を張って助けてくれたのを実感する。

(た、助けてくれたのだから、ちゃんとお礼を言わないと)

花梨が動揺したまま顔を上げると、濃紺のスターロード航空の制服に身を包んだ男性が心配そうな眼差しを向けていた。

「え……?」

ほんの数十センチ先で視線がぶつかり、冷や水を浴びせられたような衝撃が走った。
そんな彼も、こちらを見て言葉を失っている様子だ。
なぜなら、ふたりは互いによく知っている仲だった。
男性は艶のある黒髪が短く切りそろえられ清潔感がある。綺麗な弧を描く太めの眉に縁どられた黒曜石のように澄んだ瞳は、吸い込まれるように美しい。
高く通った鼻筋は鼻先にかけてのラインに一切の無駄がなく、薄い唇は冷たさも感じるが、知性的だ。

(久登さんにそっくり……まさか、久登さんなの?)
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