敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~

コックピットから降り、入国審査に向かう最中、CAたちと団体で歩いていると、チーフパーサーに声を掛けられる。
ステイ先のレストランやホテルで仲間たちと食事をすることは日常茶飯事だが、強制的なものではない。
久登の場合、疲れが溜まっているときや、他にしたいことがある場合は断ることも多かった。

「すまない。今日はあまり食欲がなくて……遠慮しておく」

久登が小さく会釈すると、チーフパーサ―はにっこりと爽やかな笑顔で応答する。

「大丈夫ですよ。ゆっくりお休みくださいね」

クルー専用通路は天井が低く、白い照明が一定の間隔で続いていた。床に響く靴音と、キャリーケースの転がる音が重なっていく。
通路を抜けると視界が開け、入国審査エリアが現れた。
パスポートを手に、列に並ぶ。仕事が完全に終わる直前で気が抜けてくる。

(早く日本に戻って確かめたい。あの女性が、花梨だったのか)

昨日、花梨とそっくりな女性と鉢合わせしてから、彼女のことばかり考えている。
馴染みのあるスターロード航空の作業服で、ケータリングの搭載作業をしていたのだから、見間違いのはずがない。
どうして彼女が、空の業界にいるのだろう。自分と同じく、まったく離れた業種にいたはずだ。
この四年間、どれだけ探しても見つからなかった彼女が、再び目の前に現れた。
もう一度、話すチャンスが欲しい。なぜあのとき消えたのか。一体、彼女の身に何が起きていたのか。
とここで、ふと久登はあることに気づく。
CAなら、日常的にケータリングスタッフと顔を合わせている。一度は彼女を見かけているはずだ、と。

「あの。ケータリングスタッフに、木梨花梨という女性がいるか、知ってる人はいませんか?」

久登はすぐ後ろに並んでいたCAたちに声をかける。
突然の質問に、皆が一瞬呆気に取られていたが、そのうちの一人が、はっきりと笑顔で手を挙げた。

「もちろん知ってますよ。花梨をケータリングスタッフに紹介したのは、私なので!」
「なんだって……?」

彼女は佐倉璃子。先日、チーフパーサーの試験に合格したばかりの、二十六歳。中堅に差しかかる年齢で、現場でやり手として知られているCAだ。言葉を失う久登に、璃子はにこにこと笑みを浮かべる。

(やっぱり、あの女性は花梨で間違いない)

そう確信した瞬間、胸の奥が激しくざわついた。


「……えっと。それで花梨と須天さんはどういったご関係なのでしょうか?」
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