敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~
久登の意思など一切関係なく、父は鷹宮家の娘――乃愛との婚約をまとめてきた。
鷹宮家は、表向きは資産管理会社と文化財団を運営する名家だが、実際には、須天ホールディングスと共同で、プライベートエクイティ(PE)ファンドを動かしている一族だった。

企業再編、事業売却、資本操作。金の流れを知り尽くした家にとって、久登は〝担保〟だった。
須天が鷹宮の庇護を得るための条件。そのための〝駒〟。
そう気づいたときには、すでに久登には選択肢など残されていなかった。
婚約も、将来も、人生そのものも、すでに誰かの手の中にあった。人として扱われていなかったのだ。
がんじがらめになった日々の中で、久登は何もかもどうでもよくなっていた。
だが、好きなことに必死で向き合う花梨を見て、思ったのだ。
自分の人生を、自分の足で生きたい。
彼女に出会って、ようやく久登は自分を取り戻したのだった。
だから、須天家を出ると告げたとき、父親の正隆に条件を突きつけられた。
会社の機密情報を一切外部に漏らさないこと。そして、勘当。
違法すれすれのことをしている以上、内部が明るみに出るのは致命的だからだ。
それでも久登は家を出た。もう、正隆への愛情はないに等しかったのだ。
なのに、最近になって、また会社が傾いてきているのか、父からの連絡は増えている。

(俺はもう、自分の人生を生きている。誰にも、邪魔はさせない)

久登は沈みゆくシドニー太陽を眺め、花梨へ想いを馳せる。

「俺は、花梨と生きていきたいんだ」




。。。
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