敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~
花梨は信じられない気持ちで彼を見る。
須天も乃愛も嘘を言っているような雰囲気ではなかった。だが目の前の彼もまた、嘘を言っているように見ない。
(何を信じればいいのか分からない……)
花梨は久登から視線を外し、彼の胸板を押して腕の中から逃れる。
心臓が激しく暴れている。彼の言ったことを信じたいという自分が、心のどこかにいるのを分かっているから。
「だって……あなたは将来、約束していた方がいらっしゃいましたよね……? 乃愛さんという女性です」
花梨が試すように彼女の名前を告げた瞬間、久登は案の定動きを止めた。
「……なんで、君が乃愛を知っているんだ?」
乃愛――。
彼が親し気に彼女を呼び捨てにした瞬間、胸の奥がずきりと痛む。
花梨は込み上げる涙を必死に耐えながら、彼を見つめる。
「私が久登さんのお家に泊まらせていただいた翌日、須天社長と乃愛さんが私に会いにマンションのロビーで待っていたんです」
久登はわずかに目を見開いたまま、何かを言いかけては飲み込む。その沈黙が、かえって彼の動揺を雄弁に物語っている。
花梨はぎゅっと拳を握った。
ここまで言ってしまった以上、もう後戻りはできない。
「あなたと乃愛さんが婚約していると教えてくれて。彼女は、私が久登さんの家に泊まったと分かると目の前で取り乱して。だから私
は、彼女たちの言っている言葉を信じました……」
声は思った以上に震えていた。
あの辛く、苦しかった時間のことを、花梨は誰にも話したことがない。
本当は、誰かに聞いてほしかった。本当は久登との未来を、諦めきれなかったのだと。
「……花梨」
久登は低く息を吐き、眉をわずかに寄せた。悔しさと後悔が入り混じったような表情で、彼女を見る。
「そんなことがあったなんて……何も知らなくて、本当にすまなかった」
しばらく間を置いてから、久登は言葉を選ぶように続けた。
「たしかに、乃愛とは婚約していた。でもそれは、親父が勝手に話を進めていただけで、俺は一度も同意などしたことがない」
彼の言葉に、花梨は思わず息を詰める。
「現に、俺は須天家から勘当されている。乃愛との結婚も……もう、なかったことになっている」
「え……?」