敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~
◆素敵な常連さん
ふたりが出会ったのは、今から五年前――花梨が二十二歳、久登が二十六歳の頃に遡る。
彼女は二十歳で調理師専門学校を卒業し、免許を取得したあと、西麻布にある高級ビストロ『ONODERA』に就職した。
ONODERAは、過去にミシュランにも掲載されたことのある名店で、富裕層や業界人が足繁く通う。
場違いだと感じながらも、花梨は料理人の見習いとして、毎日必死に包丁を握っていた。

『花梨。須天さんがそろそろ来るから、準備をしておいて』
『はい。承知しました』

オーナーにそう告げられ、花梨はすぐにテーブルセッティングに取りかかる。
店にとって〝須天さん〟は、特別な客だった。
須天正隆(すあま・まさたか)――日本を代表する投資会社・須天ホールディングスの創業者であり、現会長。政財界にも太い人脈を持ち、ONODERAの常連の中でも、ひときわ存在感のある人物だ。
穏やかな笑みを浮かべ、物腰も柔らかい。だが、誰に対しても必要以上に踏み込まず、オーナーに対してさえ一定の距離を保っている。
一人で静かに食事をする日もあれば、会社関係者を伴い、接待の場として利用することもあった。
それだけに、須天の来店がある日は、店の空気がわずかに張り詰める。
粗相は許されない……そんな無言の緊張が、スタッフ全員に共有されていた。

(やっぱり、須天さんがいらっしゃるときは、緊張するわ)

気の重さを感じながら言われた通りテーブルセッティングをした後、ほんの数分後に須天は現れた。
しかも、見慣れない若い男性をひとり引き連れて。

『今日は、息子を連れてきたんだ』

須天はいつもの柔和な笑みを浮かべ、オーナーにそう告げた。
息子と紹介された彼は、須天よりも十センチは高い百八十はある長身で、店の視線を一心に奪ってしまうほど、端正な容姿の持ち主だった。
花梨も思わず動きを止め、彼へ視線を送った。

『よろしくお願いします。久登と申します』
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