孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む
第二章:再会

あれから、五年後――。

「篠宮さん。今日入院予定の心臓外科の患者さんのカルテ、今すぐ工藤先生のところに持っていってもらってもいいかしら」
「かしこまりました」

一葉は少し気が重くなったが、努めて笑顔を作り、先輩から渡されたカルテを手に椅子から立ち上がる。

(うう。工藤先生に会いたくないなぁ……この前、断ったばかりだし)

はぁ、とため息を軽くつき、数日前の記憶を手繰り寄せながら、心臓外科のある三階へと歩き出す。
文京区にある京極第一病院で働く一葉は、患者と医者を繋ぐ医療事務員だ。
よってこのように、医局へ出向くことが多く、医者との接点も多い。

「――失礼します。患者さんのカルテ、お持ちしました。工藤先生はいらっしゃいますか?」

扉をそろそろと開け、少しばかり大きな声で呼びかけるが、ちらほらいる先生はみな忙しいようで反応はナシ。
しかし遠くで、勢いよくこちらを見る男性がいる。工藤だ。

「おお、まさかの篠宮さん! 今日会えるならちゃんと髪、セットしておけばよかった」

軽口とともに歩み寄ってくる工藤は、白衣越しにもわかるすらりとした長身の持ち主だ。無造作に流した黒髪の隙間から、澄んだ切れ長の目がのぞいている。

「別に、そんなことしなくても素敵ですから……どうぞ」

愛想笑いをしながら持っていたカルテを差し出すと、彼は「ありがと」と甘い笑顔を浮かべ受け取った。

「じゃあ、この前言っていたデート、してくれる?」
「いや、それは……最近父の調子もよくないですし」
「じゃあ、お父様の様子も見に行きがてら、一葉さんの家にお邪魔しようかな」


何を言っても、口説いて返してくる男に、はぁ……とわざとらしいため息でかき消した。

「もう行きますね。カルテ、先生に渡しましたからね?」
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