【執着兄弟の溺愛シリーズ】内緒の三つ子を出産したら、執念で見つけ出した凄腕パイロットから重たい独占愛を刻み込まれる
「氷室さん、お酒強いんですね。よく飲まれるんですか?」
「仕事が完全にフリーの日の前日は飲むよ。でも、フライト予定の前日とステイ先では絶対に飲まない」
 話を聞くと、パイロットには乗務開始十二時間以内は禁酒しなければならないというルールが存在するらしい。けれど、氷室さんは万が一を考えて二十四時間断酒しているのだと教えてくれた。
「パイロットには、飛行機を飛ばす以外にもスタンバイっていう仕事があるんだ」
「スタンバイって何ですか?」
「当日の突然のトラブルや欠員に備えて、空港で待機すること。それも仕事の内だからお酒は大好きだけど、飲める日の方が少ないかな」
「大変なお仕事なんですね」
「そうだね。でも、乗客や乗員の命を預かる仕事だから、万全の体勢を整えなくちゃいけない。少しでも体にアルコールが残っていると、緊急時の判断に遅れが生じることがあるんだ。そのコンマ数秒の遅れが命取りになるから。そんなリスクは絶対に犯せない」
 仕事の話をする氷室さんの目は真剣そのものだ。
 以前、園児たちをつれて空港見学に行った時も、彼からはパイロットとしての自信や誇りを感じた。
パイロットという仕事は、乗客を安全に目的地まで送り届けるために常に緊張感に晒され、極めて重大な責任を担うのだ。
そんな仕事を全うする氷室さんを私は改めて尊敬し直す。
「そういえば、凛花先生はどうして保育士に?」
 ポテトフライを摘まみながら尋ねる氷室さんに私は苦笑する。
「あのっ、その凛花先生はやめませんか?」
 保育園で子供や保護者の方に呼ばれるのは慣れているけれど、氷室さんにそう呼ばれるとなんだか変な感じがするし、照れくさい。
「じゃあ、何て呼んだらいい?」
「名前は藍沢凛花なので、好きに呼んでください」
「分かった。じゃあ、凛花で」
「えっ⁉」
 てっきり『藍沢さん』と名字で呼ばれることを想像していた私は驚いて声を上げた。
「ダメ?」
「ダメではないですけど、まさか名前呼びされるとは……」
「名字呼びだと何となく他人行儀な気がするでしょ。俺のことも翔真って下の名前で呼んでくれて構わないよ」
本音を漏らすと、氷室さんは表情を変えずにあっけらかんと言ってのけた。
「そ、そんなの無理ですよ! それに、氷室さんって私より年上ですよね?」
「今、三十四。凛花は?」
 六歳年上だと知り少し驚く。
落ち着いた雰囲気はあるものの、顔つきは溌溂としているし肌艶も良いため年齢よりもずっと若く見える。
「二十八です。やっぱり私の方が年下なので、『氷室さん』と呼ばせていただきます」
「分かった。で、どうして凛花は保育士に?」
 氷室さんの言葉に、私は持ち上げていたビールジョッキをテーブルに置きポツリポツリと話始めた。
「今はもう亡くなっているんですけど。母が保育士だったんです。子どもの頃から保育士として働く母をずっと尊敬していて、私も同じ道に進みました」
「凛花にとっては天職かもしれないね。空港ではぐれた男の子……雄大くんと凛花のやりとりを見て、子供想いの良い先生なんだろうなってすぐに分かったよ」
「そんな。私なんてまだまだ至らないことばっかりで。あの日だって雄大くんを不安にさせてしまったし……」
 あの日のことを思い出すと、今も自分の不甲斐なさと申し訳なさでいっぱいになる。
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