【執着兄弟の溺愛シリーズ】内緒の三つ子を出産したら、執念で見つけ出した凄腕パイロットから重たい独占愛を刻み込まれる
「あの時、俺は雄大くんが怒られるかもって心配してたんだ。でも、凛花の方が謝った。大人になって子どもに自分の非を認めて謝るって、なかなか簡単じゃないよ。だから、凛花のことは印象に残ってたんだ。そしたら、ジムでバッタリっていう」
 氷室さんはおどけたように言う。
「私も驚きました。しかも、また恥ずかしいところを見られて助けてもらっちゃって」
「凛花のことなら、俺は何度だって助けるよ」
 氷室さんは真っすぐ射貫くような瞳を私に向ける。その視線にドキッとして私は慌てて話題を変えた。。
「えっと……氷室さんはどうしてパイロットに?」
すると、氷室さんの顔にほんのわずかに陰りが見えた。いつも明るい彼が見せた初めての表情だった。
「俺がパイロットになろうって考えたのは不純な動機からなんだ。うち、ひとつ年上の兄貴がいてさ。兄は子供の頃から『天才』って周りに持てはやされるほど優秀で、何をやらせても完璧だった。でも、俺は兄程優秀じゃなくて。両親も口には出さなかったけど、兄に期待しているのが伝わってくるんだ。だから、兄に対してずっと劣等感を抱いて生きてきた」
 私は彼の言葉に静かに相槌を打った。
「小学生で兄が医者になるって決めて、両親は立派だってすごく喜んだ。それを見て、安易だけど俺はパイロットになろうと決めた。兄と同じ重責を担う仕事を選ぶことで、兄と対等になって両親に認めてもらおうとしたんだ」
 氷室さんは考え込むようにテーブルの上で指を組み、視線を下げた。
初めて目の当たりにする氷室さんの弱さを知った。
彼は順風満帆な人生を送っているのだと勝手に決めつけていたけれど、優秀な兄を持ち、人知れずたくさんの苦労や挫折を経験してきたに違いない。
「私は不純な動機でも良いと思いますよ。実際、氷室さんは今も努力を続けてパイロットとして働いているんですから」
 卑下しているが、彼はアストラルジェット航空で最年少で機長になるほどの実力者だ。
「こないだの見学で氷室さんから話を聞いて『パイロットになりたい』っていう夢ができた子どももいるんです。氷室さんのパイロットとしての情熱や誇りが子どもたちに伝わったんです。それってすごいことだと思いませんか?」
 良い感じに酔いも回り私は前のめりになって話す。
「それに私はパイロットとして働く氷室さんの仕事ぶりや考えを、心から尊敬しています」
 ハッキリ告げると、氷室さんはフッと微笑んだ。
「ありがとう。こういう話って人にしたことがなくて。勇気を出して凛花に話してよかった」
 自分の気持ちを伝えただけなのに、氷室さんにお礼を言われてしまった。
「いえ、私は思ったことをお伝えしただけなので」
 すると、氷室さんは少し考えた後、言葉を紡いだ。
「俺達兄弟は、性格も真逆なんだ。兄貴は天才肌だけど、口数も少ない鉄仮面。だから、反対に俺がおどけてみせると、家庭の雰囲気が和むんだ。それからは、空気を読んで愛想よく振る舞うのが自分の役割になった」
 なるほど、と私は頷く。
人当たりが良くて誰からも愛されるような人柄になった背景には、彼の過去が関係しているのかもしれない。
「あっ、でも勘違いしないで。兄貴が悪いわけじゃないし、もちろん家族仲は良好だよ。それに、俺は心から兄貴を尊敬してるから」
 少し重たくなった雰囲気を取り払うように、氷室さんが明るく言った。
「それ、氷室さんの本心ですか?」
酔いも手伝って私は饒舌になる。
「え?」
氷室さんの言葉からはお兄さんやご家族に対しての確かな愛情が伝わってきた。でも、それがすべて彼の本音だとはどうしても思えなかった。
きっと今も場の空気が暗くならないように配慮してくれているに違いない。
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