酔っ払った勢いで子どもを授かりました。って、相手は誰?
(違う……お父様が準備してくれた宿だわ……)
 エリサリナは昨日付で騎士団を退団となった。騎士団の宿舎で寝泊まりしていたため、昨日付で騎士団を辞めたエリサリナは、昨日から今日にかけては宿舎で休めない。だから、父が代わりの宿を手配してくれたのだ。
 送別会後、酒を飲んで酔っ払ったエリサリナを親切に宿まで連れてきた人がいて、その人と身体の関係を持ってしまったと考えるのが妥当だろう。昨夜の参加者をざっと思い返すものの、それすら記憶が危うい。出席者の名前を全員あげろ、と言われても答えられない自信がある。
 エリサリナは手にしていた鍵を受付窓口へと返却する。
「いってらっしゃいませ」
 受付の女性はにこやかな笑顔で声をかけてくれるが、肝心の精算をしていない。
「あの、精算……」
 遠慮がちに声をかければ「支払い済みでございます」と、これまたにこやかに答えてきた。
「あ、そうでしたか……では」
 ぺこりと頭を下げたエリサリナは、心の中で父親への礼を叫び、宿のエントランスホールで迎えがくるのを待っていた。

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