酔っ払った勢いで子どもを授かりました。って、相手は誰?
「はぁ……」
 騎士を辞めて戻ってきたというのに縁談は一向にまとまらない状況では、ため息もこぼれてしまう。せめて剣でも振り回せれば気分転換にもなるのだが、それすら家族からは禁じられている。とにかく、見た目だけでも可憐な女性になれるように、というのが理由である。
 こんなことなら騎士を辞めず、一生を騎士道に捧げればよかったと考えてしまったが、女性が結婚をせずに仕事に生きたという前例はない。となれば、このまま結婚できなければ、神に生涯を捧げ、修道院で慎ましく暮らす道しかない。
 この際、相手を選んでいる場合ではないだろうと、誰もが思い始めたそのとき、一通の手紙が届いた。
「カルデナ侯爵家からです」
 家令が口にした名は、歴史ある名門だ。そんな家から、田舎貴族のリュミエール伯爵家に手紙とは、いったいどのような内容か。
「……縁談だ。エリサリナを妻に望むと」
 信じられないと言いたげな父親は、その場で放心していた。信じられないのはエリサリナも同じである。なぜなら、カルデナ侯爵家とは今まで縁がなかったのだから。
 もしかしたら、社交の場で見かけたかもしれないが、かもしれないというものであって、はっきりそうだとは言えない。つまり、エリサリナはカルデナ侯爵家を認識できていない。
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