女神イリオネスと、九ヶ月の飴玉
「よかったよ。僕の見た目に合わせ、こんな優しい音楽を連想したんだね。さすが情景の女神だ」

 イリオネスは、心で思っていることを殺し、引き攣った作り笑顔で、小刻みに頷くのでした。

「さようならーーっ!!」

 挨拶もそこそこに、イリオネスは黄金の翼を力いっぱい羽ばたかせました。
 一刻も早く、あの不気味で(意外に優しい)眠りの神の洞窟から遠ざかるために。

 しかし、必死であればあるほど、彼女の「情景を司る力」は高まってしまいます。

 彼女の心情など露知らず、全力で風を切る指先からは、必然的に、空へと鮮やかな七色の虹を描き出してしまいました。

 地上から、それを見上げた人々は、口々にこう囁き合います。

「なんて力強くも描く虹だ。あんなに色鮮やかなのは珍しい」 「きっと、どこかの女神様に何か素敵なことがあったんだろうね。幸せのお裾分けかな?」

 背後で広がる祝福の虹と、人々の微笑ましい勘違い。

 その言葉を受けながら、片手に持つ飴玉を庇いながらも「二度と行くもんか……!」と涙目で空を突き進むのでした。
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