女神イリオネスと、九ヶ月の飴玉
姉と兄
 宮殿に戻ったイリオネスは、ようやく一息つくと、ヘローラへの報告に向かいました。

 宮殿の大広間の入り口で、身なりを整えると、へローラの前で肩肘を突きます。

「お帰りなさい、イリオネス。ヒュピヒュピへの手紙、ありがとうございます」

 玉座で微笑むヘローラに、イリオネスは精一杯の澄まし顔で答えました。

「いえ、こらぐらいのこと、大したことではございません。へローラ」

 ふと、玉座の隣に視線を移すと、そこには最高神ゼオスがいました。……いえ、正確には「必死に顔を布でこすり落としている」最高神の姿がありました。

「あっ……あれは……」

 絶句するイリオネスに、ヘローラは「まったく、困ったものです」と呆れたように、けれど慈しむような微笑みで説明します。

「相変わらずアフディーの悪戯です。ゼオスが寝ている間に、『これは逆さ絵だ』と言い、上下反対の顔を油性マジックで書いてしまったのです」

 イリオネスはよく見る光景に、おまり驚きを見せることはありませんでした。

「全く、困ったものですね。十二神(あなた様の娘さん)ともあろうお方が」

 ヘローラはそれを受け、優しく、けれど含みを持たせて言い直しました。
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