ほたる先生は振り向かない

迷わない

現国の講習は、古典より少し自由がききやすい。
理由はたぶん、沢村先生がいるから。


そして私は夏休み途中から現国の講習を受けるようになってから、古典と合わせて取るようになった。

自習室にいるいつものメンバーも、だいたい現国を取っている。
気づけば私も、毎回受けるようになっていた。


沢村先生の講習は、授業と変わりなくずーっと高めのテンションで続くけれど。
メリハリが効いていて『濃い!』とか言っていたみんなの言いたいことが、ちょっと分かる気がした。


その沢村先生は、教室へ入ってくるなり

「はーい!今日もみんなの大嫌いな評論やるぞー!」

なんて言いながら教卓にドン!と教材を置いた。
“大嫌いな”ってさらっと言ってしまう教師は、学校中を探してもこの人くらいだと思う。


案の定、教室のあちこちから「また評論かー」と気の抜けた返事が返ってくる。

沢村先生はそれを見て笑った。

「だよなー。俺も高校の時、大嫌いだった」

教師なのに、そんなこと言っていいんだ。

そう思いながら一番後ろの席から眺めていると、先生は黒板へ大きく文字を書いた。


【筆者はなぜそれを書いたか?】


チョークを置いて、こちらを振り返る。

「共通テストってさ、答え探しじゃないんだよ」

教室が少し静かになる。

たしか、先生は少し前の講習で【筆者が言いたいことを探すゲーム】だと表現していた。


「評論読む時、“この人なに言いたいの?”って考えるだろ?」

一度そこで言葉を切ってから、先生が笑う。

「それが、この間も言っただろ。筆者の主張を探すゲーム」

黒板を指でトントンと叩く。

「筆者が散りばめた言葉ひとつひとつの中から、どれが重要なのか、それを拾い上げてやる。そういうゲーム」


私の前の席の男子がぼそっとつぶやいた。

「めんどくさ…」


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