ほたる先生は振り向かない
三年坂。

班行動でウロウロするはずが、他校の修学旅行生や国内外の旅行客に紛れてはぐれてしまった。

人混みがすごすぎて、もはや同じ学校の生徒もよく分からない。


さっきまではしゃいで抹茶アイスを食べていたっていうのに。
溶けかけのアイスを片手にスマホで手当り次第に同じ班の友達に電話をかけまくる。

まったく応答がなくてつらい。


────と、いうか。
人、多すぎない?


階段を少し端によけて、もう一度電話をかけようと顔を上げる。

その時だった。


「岸さん?」

聞き慣れた声。

人混みの向こう。

制服姿の生徒たちに紛れて、見慣れた銀縁メガネが見えた。
一瞬だけ目を丸くしたように見えた。


「……ほたる先生!」

思わず一歩踏み出す。


その瞬間。
通行人に肩がぶつかった。

弾かれるみたいに足元がずれて、身体が前へ傾く。
でも、転ぶ前にほたる先生の手が伸びてきて、腕をつかまれた。


「危ないですよ」

たったひと言。シンプルにそれだけ。
先生はすぐに手を離した。


「ここで転ぶと、三年以内に死ぬという言い伝えもありますから」

「……縁起悪っ」

照れ隠しで言い方がつい投げやりになってしまったけれど。

大事なことを言うのを忘れていた。


「ほたる先生、ありがと」

「死なれたら僕が呪われそうですから」


先生はちっとも振り返らない。

助けてくれた時も、手を離した時も。
そして、今も。

京都まで来ても、やっぱり振り向かない。



代わりに、少し先の方に私と同じ班の子達を見つけてくれた。


「岸さん。あそこにみなさんいるみたいですよ」

「……あ、ほんとだ」

「今度ははぐれないように」

「うん!」


私だけが特別なわけじゃないけど。

それでもちゃんと優しいのを知ってるっていうだけで、なんだか誰よりも先生を理解した気になってる。

そんな単純な自分が、少しだけおかしい。


ふっとほどけそうになる顔を引き締めて、私は友達の元へ駆け戻った。



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