宅配業者のお兄さんは前腕の血管が誰より浮き出ているので――フェチがバレたらなぜか激愛で囲い込まれました
「では、またよろしくお願いします」

 唐木さんが爽やかな笑みを浮かべたまま、事務所を出てゆく。私はガラス戸前に立ち、彼を見送った。

 事務所の前に停められたトラックに向かう途中で、唐木さんは一度立ち止まった。
 ペットボトルのキャップを開ける彼を、ガラス戸越しについ見てしまう。

 唐木さんの前腕では、回外筋が主導権を握り、腕橈骨筋を立体的に浮き立たせていた。
 キャップを回す動きに合わせて、橈側皮静脈(とうそくひじょうみゃく)が、川が氾濫するかのように浮き出てくる。

 彼はそのまま、ペットボトルの水を口に含んだ。
 外は春先だというのに、夏日が何日も続いている。以前までは常温のものを渡していたけれど、今回は冷蔵庫に入れておいてよかった。

 ペットボトルを持つその前腕すら、遠目でも美しい。
 入り口に立ったままじっくりとその様を味わっていると、彼が急にこちらを振り返った。

 ガラス戸越しに目が合い、体がぴくりと震えた。
 彼はペットボトルから口を離し、それを掲げて軽く頭を下げる。

 きっと〝ありがとう〟と伝えてくれているのだろう。
 だから私もなんでもないふりをして、彼に会釈を返した。

 やがて彼はトラックの背後に回り、後部扉を確認しレバーを回す。ぐいっと閉めた瞬間を逃さず、再び彼の筋肉と浮き出た血管を最後まで拝む。
 それからすぐ、彼は運転席に乗り込み、去っていった。

 今日も最高だった……。
 デスクに戻りながら、私はうっとりとしてため息をこぼした。

 唐木さんの前腕は、今まで見てきた中で一番の美しさだ。
 鍛えられた逞しい腕、そこに浮き出る血管。今まで出会った誰よりもくっきりと、はっきりとしたその静脈は、まるで生命力たっぷりに生い茂る夏の大木のようだ。

「舞園さん、今送ったデータ打ち込みお願い」

 不意に飛んできた声で、我に返る。
 いけない、今は仕事中だ。

「はい、今すぐ」

 私は彼の前腕を頭の隅に追いやって、目の前のパソコン画面に向かった。

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