宅配業者のお兄さんは前腕の血管が誰より浮き出ているので――フェチがバレたらなぜか激愛で囲い込まれました
「自転車は……あちゃー」

 彼はなぜか私の隣にやってきてかがみ、そう言った。それから、外れたチェーンの、ペダルの部分をじっと見る。
 どうやら、心配してくれているらしい。

 そんな彼に申し訳ないなと思いつつも、私は突如目の前に現れた、彼の前腕をガン見してしまった。
 いつも通り、筋肉と血管が素晴らしい。しかも、いつもよりも近い距離に鼓動が高鳴る。

「これなら直せそうだ。触っても?」

 彼がなにか言ったような気がしたが、私は彼の美しい前腕を、網膜に焼きつけるようにじっと愛でていた。

 きっとあの辺りの筋肉は、親指を司る長母指屈筋に違いない。指を動かすと浮き出るあの辺りは、深指屈筋と浅指屈筋だろう。
 なにかスポーツでもされていたのかな。握力はどのくらいだろう。

 すると突然、その芸術品が目の前から消え去った。

 不思議に思い、顔を上げる。
 目が合った。それも、三十センチくらいの距離で。

「わあ!」

 思いもよらぬ近さに体がのけぞり、再び尻もちをついてしまいそうになる。

「大丈夫ですか!?」

 尻もちをつかなくて済んだのは、唐木さんが背を支えてくれたからだ。

「重ね重ね、すみません。大丈夫です」

 言いながら恥ずかしさがこみ上げてくる。
 同時に、私は背に触れる彼の前腕の感触に、ドキドキしていた。
 あの国宝級の前腕が、私の背中に触れているのだから。

 ……あの前腕が、私に触れているっ!

 少し遅れて、事の重大さに気がつく。私は背を跳ね上げるようにして、しゃがんだままバランスを取った。

 すると、唐木さんの顔が少し歪んだ気がした。
 なんで? と思うも一瞬。彼はすぐにいつもの爽やかな笑顔で、私に言う。

「咄嗟に触れてしまってすみません。あの、自転車直しても?」

 唐木さんは、私の自転車の、チェーン部分を指差した。

「え、直せるんですか?」

 見上げると、唐木さんは笑顔のまま頷く。

「ええ、これくらいなら。チェーンが外れているだけみたいなので」

 彼は私がはいと答える前に、私の横にしゃがんだままチェーンに触れる。
 そのままペダルとチェーンを何度か動かし、あっという間にチェーンを元に戻してしまった。

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