宅配業者のお兄さんは前腕の血管が誰より浮き出ているので――フェチがバレたらなぜか激愛で囲い込まれました
 彼が素早く目をまたたかせる。それで、はっとした。慌てて口元に手を当て、視線を落とす。

 なにを口走っているのだろう。恥ずかしい……。

 頭上から降ってきたのは、優しい吐息だった。
 呆れられたのかもしれない。そう思い、目だけで彼を見上げる。

 だがそこにあった彼の顔は、安堵したような表情で。

「なんだ、そういうことだったのか……」

 唐木さんはつぶやき、頬を少しだけ赤らめた。

 その表情に、鼓動がトクトクと速まりだす。
 私は手にしていた紙袋を、咄嗟に彼に差し出した。

「これ、この間のお礼です。自転車直してくださり、ありがとうございました!」

 そう言って胸元に紙袋を押し付け、そのまま離れようとした。
 あんな告白をしてしまった後なのだ。彼の近くにい続けるなんて、恥ずかしすぎる。

 だが、彼の右手は踵を返した私の腕を掴んだ。

「待って!」

 振り返ると、彼は紙袋を左手で抱え、切なそうな顔を私に向ける。

「本当に、嫌じゃない? 俺の、前腕」

 こくりと頷くと、彼はやっと安堵したような顔を見せた。

「……触ってみる?」

「え、あ、あの……」

 突然そんなことを言われて、戸惑わないわけがない。
 もちろん、嫌だからじゃない。だけど、あの神々しい前腕に私ごときが触れるなんて……。

 なにも言えずにいると、唐木さんが苦笑いを浮かべた。

「なに言ってるんだろう、俺。ごめん、忘れてください」

 そのまま、彼はぱっと手を離す。
 行き場を失った私の腕は、そのまま宙をだらんと垂れた。

 そのままトラックの後ろに向かう彼を、気づいたら追いかけていた。

「唐木さん!」

 荷台の扉が閉まっているか確認していた彼が、こちらを向いた。
 その顔は、先ほどと違ってちょっとだけ嬉しそうだ。

「すみません、次の配達があるので。でも――」

 それから、唐木さんはこちらにやってきて、私の頭に軽く自身の手を置いた。

「仕事終わりに、ここで待っていてもいいですか?」

 彼の声は、私の鼓膜を甘く震わせる。

 これは、彼の手が、そこを走る血管が、頭上にあるから?

 考えてもわからないけれど、とにかくこくりと頷く。すると唐木さんは私の頭から手を退かし、クッキーの袋を軽く掲げて運転席に乗り込んだ。

 唐木さんのトラックは、そのまま道の向こうに消えてゆく。私はひとり、胸の高鳴りを抱えたままオフィスに戻った。

< 9 / 12 >

この作品をシェア

pagetop