ハイエンドマリッジ~身も心も成熟したオトナの男に愛されて~
「僕は兄には負けない意欲があると思っています。〝才能〟なんて漠然とした言葉に負けたくない」

コツ、コツ、と足音を響かせて、一歩、二歩と私の方に近づいてくる。

これまで彼がしたことのない険しい表情に圧倒されて、体が動かなくなる。

「どうか力を貸してくれませんか」

「え?」

彼の手が伸びてくる。私の右手を両手で掴むと、口もとに持っていって――。

「涼羽さんが傍にいてくれるなら、僕は――」

手の甲に触れようと唇を近づけた、そのとき。

「こんな場所でなにしてる」

威圧感を含んだ低い声と、コツンという革靴の音が響いた。

渡り廊下の方へ目を向けると、康惺さんが感情の読み取れない冷ややかな眼差しを携えてそこにいた。

「やあ、兄さん。随分早かったね。サロンでの交流はもう終わったの?」

私の手をパッと放した惺也さんは表情を一転させて、いつもの人当たりのいい顔で笑う。

「丹波が箕山会長に呼ばれたから、早めに戻ってきた。それより――」

ゆっくりとこちらに近づいてくる康惺さん。私と惺也さんの間に身を滑り込ませると、私を背中に隠した。

「人の妻に手を出すのは、よくないんじゃないか?」

< 141 / 257 >

この作品をシェア

pagetop