ハイエンドマリッジ~身も心も成熟したオトナの男に愛されて~
第三章 彼は紫煙の向こうに



取引先の重役との会食を終え、料亭を出て車に乗り込む。ほんの一瞬外に出ただけなのに、じめじめとした空気が肌に纏わりついてきた。

夜にもかかわらず容赦のない蒸し暑さ。本格的な夏だ。

「康惺殿とはどうだ、うまくやれているか?」

送迎車の後部座席に乗り込んで早々、父が尋ねてくる。

ふたりきりとはいえ社用車の中、まだ仕事中だ。私は「社長」とたしなめた。

「かまわないだろう。なあ、速水(はやみ)さん?」

運転手の速水さんは私が子どもの頃から父の送迎を担当している。

彼は親戚のおじさんのように破顔して「もちろん。私は聞かないでおきますから」と快く返事した。

まあ、速水さんに聞かれて困るようなことを話すつもりもない。

「大丈夫だから心配しないで。……ちゃんと仲良くやってるから」

当たり障りなくごまかすと、父は「そうか」と短く答えて、少し安心したような顔で窓の外に視線をやった。

両親は私と康惺さんが同じ部屋に暮らしていると思っている。

実際の所、最後に彼と会ったのは一カ月前。初めてベッドをともにした日だ。あの日の記憶はまるで夢の中の出来事のように薄ぼんやりとしている。

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