ハイエンドマリッジ~身も心も成熟したオトナの男に愛されて~
これが正妻の意地というやつかな? それとも単純な嫉妬? でも、嫉妬するほど康惺さんにのめり込んだ自覚はないのだけれど。

……深く考えたら負けだ。

意識を仕事の方に持っていき、父たちの会話に集中する。提携がうまくいきますように、それだけを考えることにした。

しばらく提携に関する話をしていたが、ふと雑談が混じった。康惺さんが不動産開発の話題に絡めて、趣味のお酒の話を切り出したのだ。

場が和み、役員たちも緊張を解く。緩急の使い分けがうまい人だなあと思った。

そのとき、蛯原さんが私の方を見て艶やかな笑みを投げかけてきたので、ぎょっとした。

「失礼。化粧室の場所を教えていただけますか?」

秘書として冷静に冷静に。そう心の中で繰り返し、にっこりと微笑み返す。

「もちろんです。ご案内いたします」

私は彼女に付き添い社長室を出て、通路の先にある化粧室に向かう。

「そこを曲がってすぐのところにございます」

案内だけ済ませて戻ろうとすると、「ああ、ちょっと待って」と引き留められた。

「口紅を直すだけだから、そこにいて」

「……かしこまりました」

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