隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第23話:包囲網
「なるほど……厳しいな」
ベッドの背もたれに身体を預けた父、御堂浩輝の声は、遠い昔の威厳を失い、ひどく掠れていた。
御堂家の邸宅。
重厚なカーテンが引かれた浩輝の寝室には、微かな薬品の匂いが漂っている。
そのベッドの傍らには、海外ブランドのスーツを崩さずに着こなした叔父の敦輝が、沈痛な面持ちで控えていた。
しゃれ者の叔父らしく、ネクタイではなくスカーフを合わせている。
昂輝は二人の前に立ち、手元にある数枚の資料を握りしめながら、会社の危機を報告していた。
連日の徹夜と心労により、顔色は土気色に近いと自覚している。病床の父に心配をかけたくはないが、目に焦燥の炎がゆらめくのを止められない。
「事実無根の噂です。今、調べさせていますが、何分、SNSが発端なので少し時間がかかっていて」
会社の潔白を証明したい。昂輝の声は必死だ。
しかし、叔父の敦輝は静かに首を横に振り、眼鏡の奥の目を細めた。
「ひとつの、切っ掛けに過ぎないんじゃないかな。理由なんかないんだ。儲かっていそう、騙していそう、そういうジュエリー業界全体への鬱憤が、運悪く、御堂に当たってしまった……」
世間の理不尽な悪意を代弁するかのような叔父の言葉に、昂輝は言葉を詰まらせる。
敦輝はひと呼吸置くと、昂輝をまっすぐに見据え、言った。
「俺から二通り、提案がある。会社のためだと思って聞いてくれ。ひとつは、兄貴が社長に復帰して、昂輝が専務に戻る案。ふたつめは、俺が社長になり、昂輝が専務に戻る案」
胸の奥が焼けるような屈辱感が、昂輝の全身を駆け抜けた。
実質的な引責辞任の要求であり、経営者としての敗北を意味している。