隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
父と叔父との面会を終え、昂輝は御堂ジュエリー本社へと戻った。
昂輝がデスクに就くや否や、秘書の田丸がノックもそこそこに飛び込んでくる。その顔は紙のように真っ白で、身体を震わせていた。
目だけが、血走っている。
昂輝の背筋を、不快な冷や汗が伝った。
「何?」
昂輝は低く鋭い声で秘書を睨み据えた。
そんなことをしても意味がないと分かっていても、目に力が入る。
「全店舗か?」
「はい、首都圏や都市部だけでなく、全国十五店舗、海外の五店舗を含め、七井百貨店の全てで御堂ジュエリーの撤退を要求されています」
田丸の絶望的な報告に、昂輝の思考が一瞬停止した。
七井百貨店での売り上げは、御堂ジュエリー全体の売上の六割強を占める、巨大な生命線だ。
かつて叔父の敦輝が主導し、路面店から百貨店特化型へと舵を切った経緯がある。
おかげで収益性もブランドイメージも上がった。
しかし、七井百貨店全店舗の閉鎖となると、御堂ジュエリーの実に八割が閉店という事になる。
なぜこの最悪のタイミングで、一斉に手のひらを返されるように撤退を突きつけられたのか。
いや、百貨店にとってイメージが大切なのは百も承知だ。
しかし、七井百貨店ほどの老舗が、いわれのない世間の噂程度でこれほど大きな決断をするとは思っていなかった。
逃れようのない、巨大な網に絡め取られていくような恐怖だけが、昂輝を物理的に締め上げていく。
ぎりぎりと、奥歯を噛む。
絶望に打ちひしがれる中、社長室の重い扉が、今度は激しい音を立てて叩かれた。
「社長、大変です!」
飛び込んできた社員の錯乱した様子に、昂輝は文字通り、頭を抱える。
やぶれかぶれに問いかけた。
「今度は何だ!」
息を荒くした社員が、まくし立てるように叫ぶ。
「山梨の及川工房に強盗が入りました。居合わせた及川さんが……」
昂輝の視界が、ぐにゃりと歪む。
世界が音を立てて崩れ去る轟音を聞きながら、昂輝は激しい眩暈に襲われ、デスクの端を必死に掴んだ。