隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第24話:絡みつく



「すまんの、御堂さん。わしの手では、もう磨けん」


 社長室のデスクに置かれた画面の向こう側で、及川匠が苦渋の入り混じった声を漏らした。


 画面に映る老職人の右手は、白い包帯とギプスで物々しく固定されている。

 痛々しいその姿を見つめ、昂輝は机の端をきつく握りしめた。


「そんなこと、気にしないでください。及川さんがご無事だったことが何よりですから」


 山梨の及川工房を襲った手口は、卑劣極まりないものだった。

 夜が訪れた頃に押し入った強盗が工房を荒らし、保管されていた石を奪った上、居合わせた及川をバールで殴りつけたのだ。


 しかし、及川は剣道の段持ちだった。
 
 長年、腕を磨いていた及川は、迫る凶器をすんでのところで回避したらしい。

 傍らにあったパイプ椅子で応戦し、さらに足元の鍬を掴んで立ち向かったところで、気圧された強盗は逃走したのだという。

 工房の隅で恐怖に震え泣いていた居残りの若い職人が、慌てて警察へ通報したことで事態は収束した。


 激しい立ち回りの最中、及川は腕の骨を折っていた。

 繊細な感覚が求められる研磨の仕事に再び戻れるのかは、医師にも分からないという。

 何よりも今は、絶対の休息が必要な状態だった。


 報告を受けてすぐに山梨へ駆け付けた御堂ジュエリーの社員が、現地の病院からこのビデオ通話を繋いでいる。


「とにかく、不便なことがあったらそこにいるうちの社員に何でも言ってください。仕事に限らず、当面の生活のことも、全て我が社で対処します」


 及川が小さく頷き、通話は切れた。
 
 黒い画面に、自身の疲れ果てた顔が映り込む。

 地元の警察の調べでは、犯行の執拗さから、ここが御堂ジュエリーのお抱え工房であると知った上での計画的な襲撃だった可能性が高いという。


「……俺のせいだ」


 ぽつりと、昂輝の口から乾いた声が漏れた。

 自分が蒼乃の祖父である及川に、社運を賭けた重要な石を託さなければ、あんな危険な目に遭わせることはなかったはずだ。

 蒼乃の大切な人。そして場所。
 会社の都合で、彼女の大事なものを、次々と大変な目に合わせてしまっている。

 逃れようのない自責の念が、昂輝の胸を激しく抉る。








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