隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~



ーーカチャリ





 静かに鍵を回す音が、静まり返った玄関で小さく鳴る。


 時計の文字盤はすでに23時を過ぎていた。昂輝はネクタイを緩め、疲れ切った足取りで廊下を進んだ。

 家の中は静まり返り、明かりは全て消えている。


 息の詰まるような役員会。そしてあのレストランでの晶子との対峙。

 神経をすり減らし、身体は泥のように重い。疲労が膿のように全身に溜まり、立っているのもやっとの状態だ。


 少しだけでも蒼乃と話をしたい。

 そんな淡い期待は時間の遅さが打ち砕いた。彼女はもう、夢の中だ。


 昂輝は客間の前で静かに足を止める。

 せめて、二人の寝顔だけでも見てから自室へ向かおうか。

 あの温もりを視界に入れるだけで、胸の奥の重苦しさがほんの少しだけ和らぐような気がしたのだ。

 気配を殺し、そっとドアを開ける。


 中は真っ暗闇だった。


 違和感が、胸に小さなざわめきを生む。

 輝が暗闇を怖がるため、いつもなら部屋の隅に小さな電球が灯されているはずだ。今日は、つけ忘れただけだろうか。

 
 一歩、また一歩と、音を立てないようベッドへと近づく。

 なぜだか、冷たい汗が背筋を伝っていく。


 ベッドの脇に辿り着いたが、あまりの暗さに視界は何も捉えない。こちら側に寝ているはずの、蒼乃のいる場所へそっと手を伸ばした。

 しかし、掌が触れたのは、何の膨らみもない平らな質感だけだ。シーツの表面は、まるで最初から誰もいなかったかのように、冷たく冷え切っている。


 心臓が激しく打ち鳴らされる。


 昂輝は慌てて壁のスイッチを押し、部屋の照明を点けた。

 白い光が容赦なく照らし出した空間には、乱れのないベッドがあるだけだ。二人の姿はどこにもない。


 胃の底から何かがせり上がってくる。逃れようのない吐き気に襲われ、昂輝は口元を抑えてその場に膝をついた。


「……お、おちつけ」


 自分に言い聞かせる。

 しかし言葉とは裏腹に、視界は歪み、激しい耳鳴りが鼓膜を突き刺した。


 
 及川を心配し、山梨へ向かったのだろうか?
 
 いや、そんなはずはない。

 輝の誘拐事件が解決していないのに移動するわけにはいかないと、昼間、彼女自身が言っていたのだ。

 では、なぜ二人はここにいない?



 指先が、石のように硬直して感覚を失う。床を掴もうとした掌は、ただ無様に戦慄くだけだ。


 ありえない。二人が消えるなど。

 何よりも大切な蒼乃と輝が、再び自分の手の中から離れ、いなくなってしまうなど、考えたくもない。


 ドン。


 握った拳で、ひとつ、床を叩く。

 昂輝は飛び上がるように、玄関へと向かった。








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