隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
外の空気は、肌を刺すように冷たい。
蒼乃は暗い夜道を、ただ歩いている。
幸いにも、終電の少し前だった。
パジャマ姿のまま深く眠り続ける輝をきつく腕に抱き、頭の中が真っ白なまま、ただ何かに追われるように前へと進んだ。
気づけば、少し前まで暮らしていた下町へと足が向く。
住宅街の細い道をゆっくりと歩いていった。
「くしゅんっ」
胸の中で、輝が小さくくしゃみをする。
起きるだろうか。
蒼乃はその場に立ち止まって息を潜めた。
しばらく様子を窺ったが、小さな息子は母親の体温に守られ、再び深い眠りへと落ちていく。
安堵の息を漏らし、再び歩き出す。
自分がこれからどこへ向かい、どうすべきなのか、まともな思考は働かない。ただ、自分の知っている唯一の場所にすがるしかなかった。
アパートに到着し、少しさび付いた外付けの階段を一段ずつ上がる。
部屋の解約手続きはまだ完了していない。不法侵入にはならないはずだ。
かじかむ手で鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。
ドアを開ける。一瞬、部屋を荒らされたあの日の光景が脳裏をよぎり、身体がびくりと強張る。
恐る恐る足を踏み入れた室内は、ただがらんとしており、夜の闇が広がっているだけだった。
家具も、衣服も、何一つ残っていない。
「そうだ、業者に片付けてもらったって……」
使えるものなど残っていないからと、すべて処分して構わないと伝えたのは自分自身だった。
床には残されたゴミや埃が薄く散り、冷気だけが足元から這い上がってくる。
だめだ。ここでは生活できない。
蒼乃は張り詰めていた糸が切れたように、板の間に力なく座り込む。膝の上に、眠る輝の身体をそっと抱え直した。