隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「で、ホテルの話。確かに今日、仕事先の相手と食事に行った。女性だ。食事の後、部屋に誘われた」


 どきりと、心臓が不吉な音を立てる。

 写真の光景が脳裏に蘇りかけるのを、昂輝の次の言葉が遮った。


「部屋まで送ってほしいと言われた。言葉通り、部屋の前まで送って、すぐに帰った」


 蒼乃は小さく首を振った。

 男女がホテルで、あんなに密着し腕を回し合い……それでいて何もないなどという話が、果たして有り得るのだろうか。


「蒼乃、俺を見て」


 昂輝の手が伸び、蒼乃の両肩を包み込むように掴んだ。

 『触らないで』と言われれば、傷ついた顔をして律儀に手を引く男だ。それなのに、今の彼は頑ななまでにその手を離そうとしない。


「信じろ。絶対に、何もしていない。蒼乃と輝に顔向けできないようなことは、一つもして居ない」


 掴まれた肩に、わずかな痛みが走る。


「信じろ」


 昂輝が、もう一度言い切る。

 肩に力がこめられ、少し、ゆれる。その痛みの強さにこそ、彼の偽りのない必死な気持ちがすべて詰まっているような気がした。


 七井晶子からの突然の接触。

 見知らぬアドレスからスマートフォンに届いた、あの切り取られた写真。

 そして今、目の前で必死に訴えかけてくる、昂輝のこの真っ直ぐな言葉。


 自分が本当に信じるべきなのは、七井晶子ではない。誰かも分からない、画面の向こう側にいる悪意の送り主でもない。


 夜中に理性を失うほど必死になって自分たちを探し回り、今こうして「信じろ」と言い切ってくれる、目の前の男のはずだ。


 蒼乃は、昂輝の灰色がかった瞳を見つめる。

 これまで見てきたどれだけ美しい宝石にも、勝るとも劣らない、本物の原石だけが持つ峻烈な熱が、彼の瞳の奥に燃えている。


「……ご、ごめんなさい」


 ようやく喉の奥から絞り出した言葉とともに、蒼乃の身体から、固く強張っていた強情な力が、ゆっくりと抜けていった。



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