隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「初めまして、秘書の田丸です」
「あ、初めまして、白河蒼乃です」


 昂輝のマンションへ戻ると、車はいつもの地下駐車場ではなく、煌々と明かりの灯る正面玄関のロータリーへとつけられた。

 スーツ姿の男性が待機していた。

 運転席から回ってきた昂輝が話し始める。


「悪いな、夜中に呼び出して」
「いえ。駐車場にお止めすればよろしいですね?」
「ああ、話した通りに頼む」


 昂輝は田丸に鍵を託すと、後部座席から、まだ眠っている輝をそっと愛おしそうに抱き上げる。

 蒼乃たちは、そのまま正面口からエレベーターを使って部屋へと戻った。


「どうして、秘書さんを?」
「後で話すよ」


 部屋に入り、輝を静かにベッドへ寝かせる。
 ようやく静寂を取り戻したリビングのソファに、二人は並んで腰を下ろした。


「さあ、じゃあ次は蒼乃の番だ。どうして俺がホテルにいたと知ってた?」


 その声には、蒼乃を責めるような鋭さは微塵もない。

 ただ、複雑に絡み合った糸口を一つずつ解き明かそうとするような、静かなトーンが含まれた。

 蒼乃はポケットからスマートフォンを取り出し、画面を昂輝の方へと向ける。


「メールが届いたの。そこに写真が……」


 画面に映し出されたエレベーターホールの写真を見た瞬間、昂輝がピクリと不快そうに眉を寄せた。


「すぐに、昂輝と七井さんだってわかった」
「ちょっと待って……七井晶子を知ってるのか?」


 スマフォを睨んでいた昂輝が、顔を跳ね上げる。

 蒼乃が小さく頷く。


「ごめんなさい、話そうと思って居たんだけど」


 短い前置きをして、蒼乃は少し前の出来事を話し始めた。


 保育園へお迎えに行く途中、七井晶子から突然声をかけられたこと。
 自分が昂輝の婚約者だと告げられたこと。
 彼と別れてほしいと頼まれ、養育費として、一億円という見たこともない額の現金を提示されたこと。


「ないない、婚約なんてしてない! たしかに見合いの打診はあったけど、とっくに断ってるよ。釣書の交換もしてない」


 昂輝は何度も激しく首を横に振りながら、晶子の言葉を否定する。

 その必死な表情と、呆れ果てたような口調が、何よりも真実を物語っていた。




――やっぱり、すべて嘘だったのだ。

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