隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 カーテンの隙間から街の夜景が微かに差し込む寝室。

 シーツの海の中で、昂輝の表情はとろけそうなほどに甘く緩んでいた。


 眠る輝を連れて部屋を飛び出した数時間前。

 あれは夢だったのかもしれないと、思えてならない。


 昂輝の腕に閉じ込められ、その温もりを感じながら、蒼乃はぼんやりと、考えを巡らせた。

 モヤがかかっていた頭の中は、すっきりと晴れている。

 自分が考えるべき真の問題が何なのか、ようやく、分かった気がした。


「昂輝」
「うん?」


 髪を撫でていた彼の指先が止まる。

 蒼乃は意を決して、確信に触れる問いを投げかけた。


「お祖父ちゃんが磨くはずだった石、あれは、どうなるの?」


 一瞬、昂輝が面食らった顔をした。


 確かにピロートークには適さない話題なのは承知だが、蒼乃は聞かずにいられなかった。

 御堂ジュエリーを救うことができる、信頼回復のための試金石。

 サファイアの原石。

 昂輝の甘く緩んでいた顔が、少しずつ、現実味を帯びた顔つきへと変わる。


「……及川さんが磨けないなら代わりを探すしかない。でも……難しいな。今年の展示は無理だろう」


 あの最高峰の原石を仕上げられるのは、日本国内を探しても祖父しかいなかったのだ。

 祖父の目だけが、原石の芯の輝きを見つけられる。祖父の手だけが、荒々しくも繊細な研磨を実現できる。


 展示の中止は、御堂ジュエリーにとって致命的な打撃となるだろう。


 目が伏せられた、昂輝の横顔。

 本当に、他の誰にも磨けないのだろうか。

 彼の苦しみを、その絶望を、どうにか救えないだろうか。


 蒼乃の胸の奥で、長い間眠っていた魂の芯が、ゆっくりと溶けていく。
 小さく、しかし峻烈な火が灯され始めた。


 蒼乃は、胸元を押さえながらベッドの上に上体を起こす。

 昂輝の瞳を正面から真っ直ぐに見据えた。


「……わたし、私がやる」
「え?」


 驚きに目を見開く昂輝の動揺を、蒼乃の凛とした声が真っ直ぐに貫いた。


「私が、昂輝を助ける」


 昂輝に守られ、怯えるだけの時間はもう終わりだ。

 深い闇に包まれていた二人の、御堂ジュエリーの未来を、自分たちの力で掴み取るのだと、蒼乃は決めた。
< 122 / 148 >

この作品をシェア

pagetop