隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第28話:完璧な



ーーウィィィィィン……



 臨時の工房となった昂輝の書斎に、研磨機が高速で回転する音が響く。


「もう少し力を入れなさい」


 及川匠の、低く張り詰めた声が蒼乃の背中に突き刺さった。


「……はい」


 蒼乃は額から滲む脂汗を拭うこともせず、手元の原石へと意識を集中させる。


 五年という歳月は長く、指先はかつての感覚をなぞろうと必死に足掻いているものの、どこか滑らかさを欠いていた。

 骨折した右腕をギプスで固定した祖父が、その鋭い審美眼でじっと手元を監視している。
 
 その重圧に、背筋がじっとりと濡れていく。


 祖父は蒼乃の手から石を取り上げると、ピンセットで固定し、ルーペを覗き込んだ。

 数秒の沈黙ののち、突き放すようにそれを蒼乃の手のひらへと戻す。


「ダメだ。削りが足りんな」
「……っ」
「試作品でうまくいかないなら、本物を触らせることはできん」


 厳しい言葉が、容赦なく蒼乃の胸を抉る。

 御堂ジュエリーの未来を背負うサファイアの原石は、一筋の狂いも許されない最高峰の価値を持つ。

  祖父の妥協のない姿勢は、山梨の工房で修行をさせてもらっていた昔と同じだ。


「いいか蒼乃。石の声を聴きなさい。どこを削って欲しいか、どこを磨くと輝くか、石はそれを知っている」


 匠は立ち上がり、戸口へと向かう。


「もうひとつ、やって見なさい」


 パタン。


 ドアが閉まり、再び研磨機の回転音だけが残された。


 『石の声を聴きなさい』


 蒼乃は再び新しい試作石を手に取り、回転する円盤へと近づける。

 自分に足りないものは何か。

 このままそれが見つけられなかったとしたら……。


 蒼乃はふるふると頭を振る。


 昂輝を、そして自分たちの未来を助けると決めたのだ。

 蒼乃は再び、石を見つめ直した。
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